関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

先進的アイデア賞株式会社竹中工務店

西日本機材センター 開発グループ長 永田幸平氏

遠隔操作クレーンの導入で
作業環境の改善・技術伝承といった
業界の課題解決に寄与

当社では「社会とお客さまの最良のパートナー」になることを目標にした現行の成長戦略が2025年に最終年度を迎えようしている中、より中長期的なマイルストーンとして、2030年に目指す姿を設定している。
深刻化する建設技能者不足、建設業における時間外労働の上限規制、社会のデジタル化などの環境変化に対し、「働き方改革」と「建築生産プロセスを通じた新たな価値創造」をめざし、竹中新生産システムとして生産性向上を軸とした建築生産プロセス改革に取り組んでいる。竹中新生産システムは、施工計画のつくり込み、オープンBIM方式での効果的な生産準備とBIM活用、現地工数の削減をめざしたオフサイト化、デジタル施工技術の展開の4つの業務展開を柱とし、当社のデジタルの基盤である建設デジタルプラットフォームを介したデータ共有、活用により、生産性向上につなげている。
これらDXの取り組みは自社内にとどまらず、RXコンソーシアムを通じて広く社会に影響を与えるものとして活動している。

昨今の建設業界では、就労人口の減少や就労者の意識変化などの社会的背景を受け、労働力不足の解消、建設現場での生産性・安全性の向上、コスト削減等の実現が喫緊の課題となっている。こうした中、ゼネコン各社は建設施工に活用するロボット(施工ロボット)やIoTを活用した施工支援ツール(IoTアプリ等)の開発を進めているが、各社がそれぞれ開発を進めることは非効率であり、過大な開発コストが発生することも少なくない。また、実際に施工ロボット・IoTアプリ等を使用する協力会社にとっては、ゼネコン各社がそれぞれの仕様で開発した施工ロボット・IoTアプリ等の操作の習熟に時間を要することが新たな課題となっている。

そこで、建設業界を担う法人及びこれに協力・支援する法人が中心となって、施工ロボット・IoTアプリ等の開発と利用に係るロボティクストランスフォーメーション(Robotics Transformation(ロボット変革))の推進について協働して、資本の集中・技術集約を図るため、建設RXコンソーシアムを設立し、その下に設置される分科会において、ロボット及びIoTアプリ等の共同研究開発を実施することとした。この活動を通じて、建築物の安全性を確保しつつ、技術開発のコスト削減、リスクの分散及び開発期間の短縮を図り、施工ロボット・IoTアプリ等の価格帯を下げることで協力会社による導入を促進するなど、その普及を加速させる。建設業界全体の生産性及び魅力を向上させて、就労者のワークライフバランスの向上・処遇の改善を図り、ひいては若年層の就労を促進するとともに、社会の持続的発展及び国民生活の安定・向上に貢献していく考えである。

建設業界の喫緊の課題である働き方改革や技能者の不足、改正労働基準法等への対応に向けて、デジタル技術を活用することで、ものづくりの大幅な生産性向上を進めている。中でも代表的なデジタル技術として、遠隔でタワークレーンを操作できる「TawaRemo(タワリモ)」の開発に取り組んだ。
主に高層の建設現場で使用されるタワークレーンのオペレータは、作業時にはタワークレーン頂部に設置された運転席まで最大約50mを、梯子を使って垂直に昇降する必要がある。また、一旦席に席に着くと作業開始から終了まで、高所の運転席に1日中拘束されることになる。そのため、オペレータへの身体的負担の軽減や作業環境の改善に対する“働き方改革”に向けた取組みが求められていた。

これに対し、当該システムを用いて地上に運転席を配置すれば、作業事務所や遠隔地のコントロールセンターなどで、場所に捉われずタワークレーンの操作が行えるようになる。また、同一箇所に複数のコックピットを配置できることから、多数の若手オペレータに対して、熟練オペレータ1名による指導教育も同時に行え、熟練から若手への技術伝承ならびに若手の技量向上の一助にもなる。
今回特に遠隔に設置するコックピットのデザインにも注力し、若年層、女性にも親近感、未来感を感じさせられる仕様とした。また、通信では、メーカー問わず、どのタワークレーンにも後付け可能な通信ユニットを開発し、5台以上のカメラ画像と操作信号、振動、音声合図を同時に低遅延かつ高セキュリティーで実現している。

これまでに、竹中工務店、他建設会社の作業所において7現場導入実績があり、業界連携により現場適用数拡大中である。さらに建設業界だけでなく、クレーンを用いる造船業や風力発電、洋上風力など市場の拡大を見込んでいる。
タワリモを使用する協力会社からは、タワリモを使用することでクレーン運転室上下への移動時間が削減されるため、出勤・帰宅時間とも大幅に改善している。またオペレータが出勤するために、現場内の施錠管理をする当社職員の対応時間も短くなり、2024年4月から施行される残業時間規制にも貢献している、とのお声をいただいている。