企業連携賞株式会社木幡計器製作所
代表取締役 木幡巌氏
1909(明治42)年創業の木幡計器製作所は、創業以来115年にわたって、船舶用機器やボイラー、熱交換器などに欠かせない機械式圧力計を中心に、差圧計や液面計、温度計などの計測・制御機器を開発製造してきた。代表取締役の木幡巌氏によると、機械式圧力計は約175年前に発明されてから基本的な原理構造はほとんど変わらないという。
「汎用化してしまった製品なので差別化が難しく、業界も寡占状態にある。110年以上続いてきた会社ですが、この先のことを考えると厳しいというのが現実。悶々としていました。何か新しい付加価値をつける要素はないか、そもそも当社製品の本質的な価値はどこにあるのか、と深く考えたとき、安全や安心、信頼を見える形でお届けすることだと気づきました」と、木幡氏。
圧力は急激に変化すると危険な場合が多い。そうならないように正確に計測して知らせるのが圧力計の役割だ。木幡計器製作所は単なる“老舗の圧力計メーカー”ではなく、「安全・安心・信頼を可視提供する」会社へと自社の個性を打ち出すことにした。
一方で、圧力計をはじめとする計器や設備の保全、ビルメンテナンスなどの分野では人手不足に直面している。木幡氏は、「自社製品ではなかったが5年も壊れたまま放置された圧力計を見たことがあり、人手不足の深刻さを実感した」と話す。また、計器類は高所に設置されることが多く、ハーネス(墜落防止安全用具)を付けて作業するなど作業員の負担も大きい。「ものをつくるだけでなく、それを管理する仕組みも何とかしたい。保全点検分野の仕事がラクになるようにはどうすればよいかを考え、最終的にIoTやDXにたどり着きました」そして、社会的な課題まで解決しようと生み出されたのが、既存の圧力計や温度計などに取り付けて使う、後付けIoTセンサユニット『 Salta®(サルタ)』だ。
『Salta®』は、計器の指針中心軸に磁石を付け、センサ一体型ガラスに交換するだけで、アナログ式圧力計がデジタルのメーターになるという画期的な製品だ。交換しやすいよう一般的なリチウムコイン電池を使用し、15秒間に1回の間隔でデータを送信しても1年間は使えて、遠隔での監視も可能。点検漏れ・ミスの防止や作業員の負担軽減につながり、点検業務の省力化・合理化に大きく貢献できる。
「今は本当に革命的な技術開発が難しい時代ですが、技術と技術の掛け合わせで新しいものを生み出せたのだと思います」と木幡氏。2022年に正式発表してから各方面で好評を博し、新規の顧客も増えた。自動車や鉄鋼、化学関係など各業界のトップ企業にも採用され、すでに3000台ほどが現場で使われている。
2024年2月には、石油コンビナートなどの爆発危険エリアで使える防爆型後付けIoTセンサユニット『Salta®-Ex』を発売。後付けIoTセンサユニットとしては世界発の製品となるが、これら製品開発の背景には、企業間の連携があった。
「IoTやDXには、無線通信技術や電源技術、セキュリティ技術、ハードウエア・ソフトウエア技術など、いろいろな要素技術が必要です。大手企業であっても、とても1社では難しい。連携なくしては製品開発も今の展開もなかったと思います」
木幡計器製作所は、企業アライアンスグループ「積乱雲プロジェクト」に2013年の設立当初から参画し、さまざまな企業と交流・連携を進めてきた。自前の特許技術を軸として、『Salta®』の量産化にはシャープ株式会社との連携があり、『Salta®-Ex』は総合電子部品メーカーのホシデン株式会社との技術連携で実現した。
「世の中の課題は非常に複雑になっています。一方向からでは解決できず、複数の技術・解決策がないと解決できないことが多い」と、木幡氏は連携の必要性を語った。
「特に中小企業は、自社の専門領域や強みを自覚しつつ、他社と連携すれば実現しそうな解決策にアプローチすることが大切です。そうでないと生き残れません。当社でも『安全・安心・信頼を可視提供する』ことが強みだと考えるに至りましたが、本質的な価値を突き詰めていけば、まだまだ新しい価値を生み出せると思います」
木幡計器製作所は地域活動にも積極的に関わり、「大正・港・西淀川ものづくり事業実行委員会」の中核メンバーとして活動を牽引。地域のモノづくり企業や区役所との連携のもと、子ども向けの体験イベントや工場見学会などを10年以上にわたって活動を続けている。
例えば、工場見学会には全国から年間2000人近い修学旅行生が町工場を訪れる。体験イベントでは、かつて参加した子どもが成長して町工場に就職するケースも出ているという。さらに人材育成ための団体も立ち上げ、大阪府の認定を受けて職業訓練カリキュラムを展開している。「1社だけではできないことも、複数社で連携すればできるという一例です」と木幡氏。
現在、木幡計器製作所では従来の計器類や後付けIoTセンサユニットに加えて、医療機器の開発にも取り組んでいる。そうしたノウハウとネットワークを中小企業やスタートアップ企業のために活かそうと、2018年に自社工場内に「Garage Taisho(ガレージ大正)」を開設。イノベーション創出拠点として、IoTやライフサイエンス系ベンチャー企業のモノづくりをサポートしている。