関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

近畿総合通信局長賞株式会社センサーズ・アンド・ワークス

代表取締役 堀江聡氏

人流データサービスを基軸に
DX事業を推進し、
地域の課題解決や魅力づくりに貢献

株式会社センサーズ・アンド・ワークスは、人流データサービス事業を中心としたビジネスを展開している。データ取得に用いるIoTセンサの多くは自社で独自に開発・製造したもので、プランニング、センサの設置作業から人流の計測、データの分析、データの活用ソリューションの提案まで、すべて一貫して行っている。
「IoTセンシング事業を核に、顧客プロジェクトそのものの業務効率を改善するプロセスのデジタル化や解決策を具現化するデジタルツールの開発にも取り組んでいます。ワンストップでこうしたDX事業を展開できる会社は意外とありません」と代表取締役の堀江聡氏は話す。
人流データを取得するにはAIカメラ搭載のセンサを利用する方法もあるが、画像という重いデータを扱うため、消費電力が大きく、電源を確保しなければならない。また、画像は年齢や年齢を検出できる反面、個人を特定できてしまう問題もある。

それに対して、センサーズ・アンド・ワークスのIoTセンサ『Sign TYPE-B』は、人が発する赤外線エネルギーの変動を検知して人の数や動く方向を計測する。ボタン電池や単3、単2などの電池駆動式で、屋外屋内問わずどこでも自由に設置でき、人流の多さに応じて半年から数年間は電池交換が不要だという。画像を扱わないためデータが軽く、また、プライバシー保護の必要な場所にも設置できる。データ送信には低消費電力で広域・長距離通信ができるLPWA(Low Power Wide Area)無線通信を活用しているが、これもデータが軽いから可能なことだ。
「LPWAという通信技術と当社独自のIoTセンサがうまくフィットしました。これによって、比較的安価で街中に複数台を設置して広域かつ面的な計測ができるようになります。データサービスとしてのトータルコストはカメラを使う場合の1/10程度。短期間お試し的に使えるのもメリットだと思います」例えば、神戸市三宮エリアでは約100台のIoTセンサを設置し、日当たりのよい場所にはソーラーパネル掲載で電池交換不要のセンサも活用している。また、カメラで画像処理できるIoTセンサも自社開発しているため、公共スペースでの属性データ取得を行うなど、エリアに応じて使いわけることも可能だ。

センサーズ・アンド・ワークスが『Sign TYPE-B』を用いて人流の計測をはじめたのは2018年。当初は特にDXを意識していなかったものの、2020年頃からコロナ禍で三密回避のための混雑情報として市民に伝えるなど、計測したデータの活用方法や仕組みをつくっていくなかで「これはDXだ」と認識したという。そして、2022年ごろから自社の方向性を“IoTセンサを基軸としたDX事業”と定めた。ただデータやデジタル技術を使うだけでなく、それによってビジネスのあり方や人々の生活をよりよいものに変えることができると、強く意識するようになったのだ。
スマートシティのテーマで人流データサービスを必要とするのは、主に自治体や関連企業となる。センサーズ・アンド・ワークスではこれまで30近い自治体に人流データサービスを提供し、スマートシティやにぎわいづくり、防災DXの推進を支援してきた。スマートシティでは地域再開発に伴うプランニングや開発前後評価などを実施し、にぎわいづくりでは施策立案や実施評価にも取り組み、防災DXでは避難所ルートマップの作成や避難所運営のデジタル化など災害時の業務効率化を支援している。

DXプロジェクト例としてホームページでは、観光地周辺の駐車場問題に取り組んだプロジェクトを紹介している。人気観光地では離れた場所にいくつもの駐車場があり、誘導業務は煩雑で人手と時間がかかるのが課題だ。そこで、駐車状況を把握するAIカメラや空き状況を知らせるデジタルサイネージ、管理ツールなどを活用。リアルタイムで駐車場の空き情報を確認できる仕組みを組み立てた。AIカメラやサイネージはソーラー電源を活用し、省エネにも貢献。駐車場の運営者はもちろん、利用する観光客・地元住民にとってプラスになるソリューションを実現した。

「我々の事業は、IoTセンサを設置して計測して終わり、ではありません」と堀江氏。人数を調べて記録に残すだけでは次につながらない。街中の回遊性を高めたい、イベントの効果を予測したい…といった顧客の要望に対して、仮説を立ててIoTセンサを設置し、計測したデータを検証して次のアクションを考えるというステップを繰り返すようにしている。顧客と深くつきあい、顧客と一緒になって計測の目的を突き詰めて考え、中長期的な視点でプロジェクトに取り組みたいと話す。そのためにも、例えば、にぎわいの様子をデジタルマップで市民に伝えるなど、計測したデータを広く提供する付加サービスを行うようになった。
DXについて、堀江氏は「デジタルツールを使った三方よし」と表現した。運営する自治体や企業、利用する市民、そしてセンサーズ・アンド・ワークス。この3者すべてが満足するものを目指しているのだ。

「昔から人流データ調査や交通量調査はありましたが、その調査結果は市民生活に十分に有効活用されてきませんでした。そのデータを本当に街づくりに活かされたのは全体の1割2割くらいではないでしょうか。しかも、そこに市民の参画はないんです。私は、この状況を変えていきたい、まちづくりに市民が参画する仕組みをつくりたいと思っています。だからこそ、何のために調査をするのか、そのデータを市民にどう公開するのかまで一緒に考えていきたいのです。SNS上で市民からフィードバックをもらったり、人が回遊する様子を市民と共有したり、市民が自分ごととして街づくりに関われる仕組みをつくりたい。それが、我々の考える“三方よし”のDXです」