近畿経済産業局長賞錦城護謨株式会社
代表取締役社長 太田泰造氏
大阪府八尾市に本社を置く錦城護謨株式会社は、1936年にゴム素材商社として創業した。現在、ゴム製品関連事業に加え、地盤改良によって土地づくりを行う土木事業、誰もが共存できる空間をつくる福祉関連事業の3つの事業を展開。身近な製品としては水泳用のキャップや家電製品のパッキンなどがあり、炊飯器のパッキンは国内シェア数十%にものぼる。その他にもOA機器や医療機器の部品など、年間5000種類ものゴム製品をつくっている。
錦城護謨がDX導入を決めた理由は何だったのか? 代表取締役社長の太田泰造氏は「一番は、製造コストをどう下げていくか、生産性をどう上げていくか」と語った。製造工程を分析したところ、製造に関わる人員の1/3が検査に関わる人員だと明らかになったという。検査に多くのコストがかかっていたのだ。
一方、ゴム製品ならではの課題もある。全数検査が求められるため、1カ月で700万個から800万個の製品を検査しなければならない。
「全数検査をすると当然、工数もかかり、人手もかかります。人なので夕方になると疲れて検査精度が落ちるといった属人的な要素があり、担当者が変わればまたイチから教えなければなりませんし、そもそも人を雇いにくい。その課題解消のために、最先端のテクノロジーであるDXを使えないかと考えました」
DX導入には「抵抗感しかなかった」という太田社長。システム開発かかる費用も、それが適正価格かどうかもわからない、完成したものが本当に使えるかどうかもわからないからだ。「中小企業の経営者からするとシステムやIoTはすごくハードルが高いんですね。投資対象として考えたときに非常に怖い。よく話すんですが、システムやデザインはお化けみたいなもの。よくわからないし、なかなか取り組みにくいものでした」と導入前の不安を話してくれた。
それでも自社の課題解決を目指してDX導入を決めた錦城護謨は、大阪産業局の紹介で、製造業向けAIサービスの開発・提供を行う株式会社フツパー(Hutzper)とタッグを組むことにした。
「カメラを使った自動検査のシステムは既に導入していましたが、AIを活用することでより精度を上げたり、通常のカメラでは不可能な検査ができないかと考えました」と太田社長。検査の中でも着目したのは、不良項目トップ3の1つに入る異物混入で、まずは異物不良に絞ってシステム開発に取り組んだ。
実はAIを用いた自動検査システムそのものは存在している。ただ、ゴムは伸縮や捻れなどがあるので難しいとされてきたのだ。これまでゴムを対象としたものはなかったのだが、今回、錦城護謨×フツパーのタッグにより、約3年をかけて業界で初めてゴム製品向けのAI自動検査システムの開発に成功。製品の画像を撮影して異物を見つけ、異物不良があればピックアップするまでを自動化できている。太田社長は「AIのスペシャリストとモノづくりのスペシャリストが掛けあわせたことが大きな要素だと思います」と話す。
システム導入の効果については「まだまだ進行中」であり、全体からするとわずかではあるものの、検査工程が少し減って省人化につながったり、人によるバラつきがないため品質保証精度が向上するなど、具体的な数字には現れない部分に成果が現れているという。
「極端にいえば、AIなら24時間ずっと検査することもできます。コスト削減や精度向上もありますが、もうひとつ上にある“人手不足”という社会的な経営課題に対する、ひとつの対応策、選択肢だと考えています」
今後の計画として、現状のシステムをさらに確立させるとともに、他の製造・検査工程への展開を検討している。さらに、他社への提供も考えているという。
「人手不足や検査品質の担保といった問題は、日本中の中小企業が抱えています。技術も高くてよいモノづくりをされているけど、人が集まらないから廃業するケースがある中、DXなどは中小企業の事業継続の助けになるツールだと思います」
既存のAI自動検査システムは1千万円を超えることもあり、中小企業にとっては手を出しにくい。そこで、錦城護謨では低コストで試せるよう、例えば月々数万円で始められるサブスクリプションモデルを検討している。「『AIって、使えるやん』と思ってもらうきっかけ、DXに取り組むエントリーモデルになればいいと考えています。そうすることで日本中の中小企業が元気になってくれれば」と話した。
日本のモノづくりは世界的にも価値があり、次の世代に引き継いでいくことが重要だ。そう考える太田社長は、八尾の中小企業が集まるコンソーシアム「みせるばやお」に理事として参加。ワークショップなどを通じて、子どもたちにモノづくりの面白さを体験してもらう活動を続けている。最後に、中小企業の経営者に向けてメッセージを伺った。
「日本の人口が減るのは統計的にも明らかなので、これからはいかに少ない人数で効率的にモノづくりや事業を行うか考えなければいけません。事業の継続性という観点からDXやIoT化は避けて通れない、必須な投資になると思っています。設備投資と違って見える化しにくい部分はありますが、導入によって人ではできないことができる。必要なところに当てていければ、必ず事業に対してプラスの効果が出ると思います。我々もいろいろなAIやシステムの可能性を模索していくので、逆に『こんなこと困ってんねん、こんなことしたいんやけど』ということがあれば、お声がけいただければとうれしいと思います」