金賞(大企業部門) ダイハツ工業株式会社
コーポレート統括本部
新規事業推進室 室長 新田隆次氏
共同送迎サービスをプラットフォームに 地域の様々な移動サービスを 組み合わせることで更なる発展を
誰一人取り残さないという意味で 「人にやさしいみんなのデジタル」をDXスローガンに
世界で愛されるスモールカーづくりをめざし、軽自動車を中心とした自動車製造業を営んでいるダイハツ工業。現在はトヨタグループの一員として、国内、海外、受託・OEMの三事業を柱に、「低燃費/低価格/省資源」と高い付加価値を両立したクルマづくりを追求している。
国内事業では、スモールカーのリーディングカンパニーとして、「低燃費」「低価格」「省資源」を追求。日本の自動車市場において約30%を占める軽自動車。その軽自動車市場で、16年連続(2006年度~2021年度)で販売シェア1位を獲得。海外事業では、主力市場のインドネシアとマレーシアで “e:Sテクノロジー”を展開し、経済の伸長による自動車保有が高まる両国のニーズに、日本のクルマづくりで培った技術や商品力で応えてきた。新田氏は『ダイハツは、「地域やお客様との接点を拡大する様々なコトづくり」の活動を通じ、社会課題の解決と地域の持続的発展にも貢献しています』と話す。
ダイハツ工業ではグループスローガン「Light you up」のもと、デジタルツールを社員全員が使いこなせるよう育成を行い、誰一人取り残さないという意味で「人にやさしいみんなのデジタル」をDXスローガンに掲げている。また、DX推進の戦略として「モノづくり」「コトづくり」「ヒトづくり」の3つをテーマに、顧客との繋がりを深め、さらに少子高齢化や地域活性化等の社会課題の解決にも取り組んでいる。
新田氏によると『今回受賞させて頂いた「福祉介護・共同送迎サービス ゴイッショ」では、「コトづくり」の一環として、“介護業界の人材不足”という社会課題に対して、サポートする地域に密着し、その解決策として多様なニーズへ貢献するモビリティーサービスの提供を目指しています』との事。
デイサービスの送迎業務の効率化を図るために 専用の運行管理システムを開発
福祉車両の拡販のため、2015年から福祉専門チームを立ち上げ、全国約3万件の通所介護施設を訪問しユーザーの声をヒヤリング。当初はどんな車が使われているか、どんな機能が求められているかなど、具体的なデータを集めて福祉車両の開発を進めていく予定であった。
しかし、現場の介護職員たちの声を聞くと「車両以前の、工程や送迎業務そのものに課題がある」との気づきがあった。そこで、複雑な送迎の計画づくりに着目し、これをデジタルで解決するという発想から、2018年には「送迎支援システム らくぴた送迎」を開発し、提供を開始した。
しかし、「らくぴた送迎」の開発・運用で、送迎業務における職員の負担は軽くなったが、依然として介護現場の人手不足は解消できなかった。「ならば送迎業務自体をデイサービスの業務から外してしまうのはどうだろう? この考えの下に生まれたのが、『福祉介護・共同送迎サービス ゴイッショ』です」と新田氏。
「ゴイッショ」では、介護現場の人手不足を一介護施設の課題としてだけでなく、地域の課題と捉え、行政と連携することで、地域が共同で送迎を運行する仕組みづくりに着手。また仕組みに合わせ、らくぴた送迎の開発で培ったノウハウを活かし、複数の施設の送迎を取りまとめるという、より高度な計画づくりにも対応した専用の運行管理システムを開発し、これらの仕組みの実現に繋げた。
「福祉介護・共同送迎サービス ゴイッショ」は、“共同送迎サービス”を起点に介護人材不足の解消と高齢者の移動手段確保の実現を支援する。
“共同送迎サービス”は、各施設が単独で行っている送迎業務を外部の団体に集約し、地域一体で乗り合い、各施設に通うサービスモデルだ。送迎業務を介護現場から切り離し、地域一体で効率的な運行を行うことで、業務の効率化を実現。利用施設は、送迎から解放された時間を活用し、生産性向上を図ることができる。「本来の介護サービスにより集中できる環境を構築できる。持続的な介護サービスの実現へ寄与することを目指しています」と新田氏は話す。
複数の条件や時間の制約を考慮した運行計画を作成することは、人の手で行うことが難しい領域となるが、ダイハツではそれらの課題を解決する専用の運行管理システムを独自に開発。この運行管理システムを用いることで、複数の施設、利用者、車両などの条件を考慮し、最も効率的な乗合計画をAIで自動作成。ドライバーはスマートフォンから当日の運行計画や申送り事項を確認することができ、初めてでもシステムの指示に従ってスムーズに運行を行うことを可能にした。これらの活用で、人の手で成し得なかった新しい送迎の形を実現し、介護現場の働き方の改革に繋げている。
「福祉介護・共同送迎サービス ゴイッショ」を 地域移動のプラットフォームへ
社内では、お客様の生活を豊かにするモビリティ社会の実現を目指す「コトづくり」の1つとして位置づけられているこの取り組み。
ある地域では、効率的な運行を行うことで、対象となる利用者を送迎する為に使用する送迎車両の台数を▲20%削減。地域全体での送迎にかかるコストの低減に繋げた。送迎を依頼する介護施設は、送迎にかかる総労働時間の削減につながり、それにより生まれた時間を“本来の介護サービスの質向上”に繋げられる。また、車の運転が苦手な人や、送迎に伴う早朝や残業の対応が難しい人でもデイサービスで働く機会の創出に繋がり、新たな人材を迎え入れることも可能となる。送迎の車両は自社で保有・管理されていることが多く、車両コストの削減にも繋がっている。
サービスの顧客となる自治体(市町村)からは、少子高齢化・介護職員の人手不足が顕在化する中、地域を持続させる為の取組として評価されている。また、介護施設からは「まだまだ閉鎖的な業界に対して、異業種が業界内の課題に目を向け、その解決に取り組んでいることが非常に心強い」と期待を寄せられている。
介護人材の不足の解決という面では厚生労働省から、地域資源を活用した移動サービスという面では国土交通省から着目されているという。
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が主催する令和4年度「冬のDigi田(デジでん)甲子園」では全国ベスト4に表彰され、デジタルを活用した地方創生に繋がるサービスとして関係省庁より認識されている。
「全国の人材不足に課題をもつ介護施設に寄与できるよう、サービスの横展開を行っていきます。ゴイッショを通じて、介護現場のタスクシフティングが進み、生産性が向上すれば、現場の業務負担は大きく減少し、持続的に介護サービスを受けられる地域が広がると考えます。また、ゴイッショの取組みは、地域のシニア人材にも活躍頂くことができ、関わるスタッフ自身のフレイル予防の効果も期待できることから、介護を要しない元気な高齢者を増やすことにも期待できます」と新規事業推進室 主任の小林氏は話す。
介護業界や高齢者を取り巻く課題は、単に民間の介護施設の課題としてだけでなく、高齢者が住み続けられるまちづくりを目指す行政課題とも一致する。今後も全国の自治体と連携を図りながら、地域レベルでこれらの課題を解決できるよう取組みを広げていきたいという。
ゴイッショでは、朝夕に集中しがちな共同送迎サービスの空き時間に送迎車両やドライバーを活用して、通院や買い物支援の移動サービスや、配食などのモノの輸送など他のサービスにも取り組むことが可能だ。車両やドライバーを共有することで、コスト負担を抑えて新たなサービスを導入することが可能になる。ゴイッショは、地域全体の様々な送迎の共同化を担える素地があり、将来的には介護分野だけでなく、医療分野全般での送迎や、児童の習い事の送迎の課題解決など、より広い分野への貢献も目指している。
新田氏は「将来的に共同送迎サービスをプラットフォームとして、地域の様々な移動サービスを組み合わせることで、更なる発展が期待できます」と力強く語った。