関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

金賞(大企業部門)ダイドーグループホールディングス株式会社

販売統括部 スマート・オペレーション推進グループ
アシスタントマネージャー 浦崎永士朗氏氏

DXを活用し
自販機ビジネス全体における
課題解決を図っていく

「人と、社会と、共に喜び、共に栄える。その実現のためにDyDoグループは、ダイナミックにチャレンジを続ける。」を理念に掲げ、DyDoグループは企業価値の向上に努めている。
同社グループのルーツは、戦後すぐに始めた配置薬業にある。グループのコアとなる事業は、そこから薬やドリンク剤の製造を経て、自販機で缶コーヒーを販売する現在の姿に移り変わってきた。
浦崎氏は、「お客様の一番近い場所でお客様の求めるものを販売する、というビジネスモデルが、私たちの強みであり、社会で果たすべき役割だと考えています」と話す。
現在では、自販機を中心に主力のコーヒーブランド「ダイドーブレンド」を展開するダイドードリンコ、ドリンク剤の受託製造事業を担う大同薬品工業、フルーツゼリー市場で圧倒的なトップシェアを誇るたらみに加え、2016年からはトルコなど海外においても飲料事業を展開するなど事業の幅が広がっている。
近年、DyDoグループをとりまく経営環境は大きく変化しているが、激変に対応し、持続的成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、少し先の未来を見据え、同グループが社会の中でどういう役割を果たしていくべきかを明確化することが必要だ。
そこで2019年1月に、2030年のありたい姿として、グループミッション2030「世界中の人々の楽しく健やかな暮らしをクリエイトするDyDoグループへ」を策定し、持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けて取り組んでいる。今後も共存共栄の考えのもと、ステークホルダーの声を経営に活かしながら、企業価値向上に向けて、グループ全従業員が一丸となってダイナミックにチャレンジを続けて行くという。

グループミッション2030のありたい姿への実現に向けて、従業員ひとり1人が、自発的にデジタル技術やデータを活用し、「新たな価値の創出」「プロセスの変革」「ビジネスの創造」を行っている姿をDX推進のゴールとしている。そして、DX推進によりデジタル・データを味方につけ、業務内容や業務プロセスの変革に取り組むという。
例えば、社内で必要とされるデータの持ち方は、部署最適型の体制から部署横断型に。定型ワークが中心の働き方は、価値創出ワークに。過去の経験や勘による判断を脱却して、データを活用したスピーディな意思決定・判断へ、という具合だ。
このようなDX推進を確実に実行するために、まずは人材や組織体制、IT基盤をはじめとする「DXを推進する体制・基盤」の構築に取り組む。そして、その先にある既存事業の価値向上、業務プロセスの変革、新規事業の創出チャレンジによる「DXを通じた価値創出・変革」に取り組むステップを戦略とし実行することで、社会の変化に柔軟に対応できる同社グループのビジネスモデルの変革に挑戦し続ける。またマテリアリティのひとつである「DX推進とIT基盤の構築」は、イノベーションにつながる重要な取り組みと考える。象徴的な取り組みが“スマート・ オペレーション”だ。デジタル技術などの活用 により、自販機オペレーションのプロセスを劇的に変え、 生産性を格段に高めることができたという。

グループ企業の「ダイドードリンコ(株)」は、飲料メーカーでは珍しく、自販機を主力販路とする会社で、自販機市場の変化は大きな問題となる。昨今の自販機市場は、自販機台数減少やオペレーションに関わるコスト構成比上昇、さらに労働力不足など、複雑な問題を抱えている。
このような背景において、従来の自販機オペレーションとは異なる、抜本的な自販機業務の変革が必要だと考え、新しい自販機オペレーションの形、“スマート・ オペレーション”の構築に取り組んだという。
また、従来の自販機オペレーションは「事務作業、倉庫作業、現地作業」を、全て一人で行っており、担当者の経験と勘に左右されていた。
“スマート・オペレーション”は「分業、自販機オンライン化、AI導入」で少人数で高付加/高生産性を実現した、新たな自販機オペレーションだ。
分業では「コントローラー、ストックキーパー、ルート担当者」の3役とし、ルート担当者は自販機の飲料補充業務に専念できる環境を構築。
この分業を可能にするために、自販機のオンライン化を進め、リアルタイムに収集できる売上データを活用して、事前に訪問する自販機の決定と各自販機でどの商品を何本補充するかという「回得計画」を作成できるようにした。さらに、回得計画策定のところにAIを導入。社内外の各種データを元に需要予測を行い、誰でも最適な訪問計画を策定できるようになった。

“スマート・オペレーション”の推進体制は、「ダイドードリンコ(株)の販売統括部」が中心となり、基盤構築や、全国の営業所への浸透活動を実施。また、AIの開発は、外部ベンダーに協力を仰ぎ迅速に機能を導入した。また、営業現場に向かい、“スマート・オペレーション”の重要性を直接説明。さらに、社内報で社長や部門長から進捗状況などを細かく情報発信し続けた。
そして、グループ全体のDXを推進するビジネスイノベーショングループを経営戦略部に新設し、DX活動を開始。ビジネスイノベーショングループを中心に、社内に複数名のDXエバンジェリストとDX推進担当者を配置した「DX推進体制」を構築し、毎月、全メンバーを集めたミーティングを行い、全部署の課題や問題点を議論しデジタル活用で改善につなげていく、部署横断型の取り組みを継続的に実施することで、着実に業務改善に繋げている。

その推進体制の中で、対話型生成AIについても23年7月にPoCを実施。
そこから得られた評価や学びを元に、24年5月よりダイドーグループの新しい働き方を、生成AIを始めとするデジタルやデータによってサポートする「D-Brain」を始動した。さらに、ワークショップなども開催し、新しいデジタルツールの社内利用促進も行っている。
また、DX推進は経営トップのリーダーシップの重要となる。DXの必要性や重要性を社内報よりトップメッセージで全社に発信したり、同時に、社員より生まれたDX活動も発信するなど、トップダウンとボトムアップの両輪で、DX推進の大切さを訴求し続けていくという。

同社グループの「DX推進体制」や「スマート・オペレーション」などの取り組みが評価され、23年9月に「DX認定事業者」に認定された。効果として、DXエバンジェリストとDX推進担当者が様々なデジタルを味方につけた変革活動を行うことで、継続的な業務改善につながっている。
一例としては、海外事業部のDXエバンジェリストが「kintone」を活用して、輸出商品の見積書作成アプリを開発し、「作業時間を2時間から5分に短縮」したり、人事総務部のDXエバンジェリストが社内からの問い合わせ窓口用にチャットボットを入れ「問い合わせ側と対応側の双方の時間を短縮する」などの改善が継続的に行われている。
また、社内デジタルツールの活用が進み、DXエバンジェリストが社外のDXセミナー等で登壇するまでに成長した。

“スマート・オペレーション”の導入効果は、

  1. 生産性が大幅にUP!
    ルート担当者の1人当たりの月間「販売本数」「販売金額」が大きく上昇。また、1ルートあたりの生産性は大幅にUP。
    ⇒販売本数…120%/販売金額…140%/担当自販機台数…170%
    (※23年度末のスコア、19年度比較)
  2. 少数精鋭でのオペレーション体制が実現!
    自販機台数が約2万台増えるなか、 2019年度のルート担当者数の約70%の人手で、自販機ルート回得が実現可能に。さらに、余剰となったリソースを、他部門に配置転換させるなど、人的リソースの効率化。
  3. 「消費者」「働き手」「取引先」「社会環境」にも新たな価値の創造。
    消費者⇒自販機毎の最適な商品セットにより魅力的な飲料を提供。リアルタイムで商品在庫数を把握し売り切れの防止。
    働き手⇒経験や勘から脱却。AIにより生産性の高い回得計画が実現。分業によりルート担当者の出営から帰営までの時間が短縮。
    取引先⇒ロケーションオーナーとのコミュニケーション機会の増加。
    社会環境⇒最適な人員配置により、車両・燃料のCO2排出を削減。

今後のビジョン・計画としては、2030年のDXゴールに向かって、ダイドードリンコ以外のグループ会社も巻き込み、DX活動をさらに加速していくようだ。
“スマート・オペレーション”に次ぐ既存事業の変革や、デジタルを活用した新たなビジネス創出へのチャレンジを継続的に実施。このような継続的なDX活動と取り組みにより、将来は「DX注目企業」や「DX銘柄」への選定にもチャレンジする。
最後に浦崎氏は「自販機への商品の投入や清掃、販売管理などのオペレーションは、子会社であるダイドービバレッジサービス(株)と、当社特約オペレーターである「共栄会」が担っています。全国にある共栄会にも“スマート・オペレーション”を導入予定です。ダイドービバレッジサービス(株)は、アサヒ飲料販売(株)を25年1月21日付で吸収合併し、社名をダイドーアサヒベンディング(株)に変更し、アサヒ飲料販売の管轄エリアにおいても、“スマート・オペレーション”を展開予定です。(※24年5月にリリース済)
このように、自社だけではなく自販機ビジネス全体における、オペレーションスピードと品質管理能力、生産性の向上に加えて、労働負荷の低減による来的な人手不足、人材確保という課題解決を図っていき、自販機市場のトップランナーとして業界をリードしていきたいと考えます」と、熱く語った。

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