関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

金賞(大企業部門)住友電気工業株式会社

執行役員
情報システム部長 高橋 覚氏

全社全部門でDXを推進。
「SEQCDD改善強化」の加速・深化で
「五方よし」を実現

「400年の歴史を経て受け継がれる『萬事入精(ばんじにっせい)』『信用確実』『不趨浮利(ふすうふり)』という住友事業精神が、住友電工グループの事業活動のベースにあります。1897年、銅の精錬業の中心だった大阪で住友伸銅場が誕生し、以降、電線を製造する技術、敷設する技術、材料に関する技術を様々な用途に展開し、独自技術の開発と、新規事業への挑戦を続けてきました」と語るのは情報システム部長の高橋氏だ。現在は、環境エネルギー、情報通信、自動車、エレクトロニクス、産業素材の5つの分野で事業を展開している。
さらに「私たちは、つなぐ・ささえる技術をイノベーションで進化させ、グループの総合力により、より安心・快適・グリーンな社会の実現に貢献していきます」と繋げた。
従来より同社では、全社を挙げて取り組んでいる「SEQCDD*1」を製造業にとっての重要課題として位置づけ、デジタル技術を活用し課題の改善強化を加速・深化させていくことを、同社としての“DXの中核”と位置づけている。

(*1)「SEQCDD」とは、S(Safety:安全)、
E(Environment:環境)、Q(Quality:品質)、
C(Cost:コスト)、D(Delivery:納期)、
D(Development:開発)をいう。

すなわち、同社のDXは、様々な事業部門のモノづくりにおける特定の課題の解決に資するものであると同時に、安全、環境、品質、コスト、物流・納期、開発、という、モノづくりに関わる全ての重要課題について、全社全部門でその改善を加速・深化させるものとして位置づけられている。全社一丸となって継続的に取り組む全社活動であることが同社のDXの取組みの重要な特徴である。
さらに高橋氏は、DX推進へのきっかけとして「経済社会のデジタル化、地球環境課題への対応の強化など、事業を取り巻く内外の環境変化に的確、柔軟に対応しながら、当社グループがこれまでに培ってきた技術をさらに活かした製品・システムをグローバル市場に提供していくためには、これまでもモノづくりの製造現場を中心に取り組んできたデジタル技術の活用をさらに進めていくことが不可欠の最重要経営課題」であると続けた。
このような基本認識にたち、社長自らが委員長となって「DX推進委員会」を立ち上げ、同社としてのDXの位置付けを定めるとともに、社長が強力なリーダーシップを発揮しながら、全社を挙げたDXの取組みを「全社DX計画」として具体化していくことにした。
当社のDXは、製造現場をはじめとする全社の取組みであり、このことをすべての社員が認識して取組みを確実なものとしていくために、社内のすべての部門にそれぞれの「DX推進責任者」を任命し、これらの「DX推進責任者」からなる「DX推進実務者委員会」を「DX推進委員会」のもとに置き、必要な指示・支援を受けることとし、モデル的な事例の共有と横展開の検討を行いながら取り組むこととした。そして、このような体制のもとで議論を重ね、2021年10月に「全社DX計画」をとりまとめた。

「全社DX計画」は、部門固有の課題を解決する「部門DX計画」と、部門横断で活用する「全社DX基盤」から成り立っており、部門固有/部門横断のハイブリッド型での取組みを進めていくこととした。社内の各部門は、個々の事業などの特性と課題に応じた「部門DX計画」を策定し、その具体化によって「SEQCDD」の改善強化の加速・深化を図り、2024年7月時点で、「部門DX計画」の数は159まで増加してる。

DXの取組みに対する必要な仕組み・ツールの整備に関しては、全社レベルでの最適化も図る必要がある。このため、全社共通的な仕組み・ツールとして「全社DX基盤」を整備し、以下に示すように、「モノづくり力」「サプライチェーン強化」「働き方改革」という3つの柱ごとに仕組み・ツールを各部門に展開し、DXの取組みの底上げにも努めてる。併せて、これらを効率的に進めていくための共通/横断の取組みとして「データ活用によるプロセス改善の加速」「人材育成」の2つの柱を加え、以上を「全社DX基盤」として整備・活用を進めている。

モノづくり力強化

製造設備・センサーと連動して、人・モノ・設備の状態をリアルタイムに可視化する自社開発ツール「モノづくりナビ」を、グローバル全工場に展開。単なるツール展開ではなく、ツールを活用した現場改善の手法を展開している。

サプライチェーン強化

国内外関係会社全体の販売・製造データを統合してデータ活用し、業務効率化を図るための基盤として、ブロックチェーン技術を活用した自社開発のデータ統合基盤「データハブ」を活用し、グループ会社間EDI化率を2025年度までに100%とする。

働き方改革

間接業務時間削減のための汎用ツールとして、電子申請・承認システム、文書管理システムを自社開発し、国内外関係会社含めて展開を推進。

全社の各部門でのDXの取組みが自立して確実なものとなっていくためには、それぞれの部門の事業に即した課題に対してデジタルを活用して解決に取り組む人材、とりわけ、部門としての取組みを現場で率先することができるリーダーを各部門で育成していくことが不可欠となる。
高橋氏は、「当社としては2025年度に、リーダーとして“DXコア人材”を300人まで拡大する計画を立てており、このことを2023年5月に策定・公表した『中期経営計画2025』で明確に位置づけています」と話す。
“DXコア人材”の育成のための一例として、研修コースとして、自部門の課題に対してIoT/AI技術を活用した解決方法に関する立案からデータ収集、分析、現場フィードバック、といった一連の課題への取組みを経験する「データ分析トレーニー制度」を2018年度より実施。この研修コースの履修者を着実に増やしており、これまでに約70名が修了している。

同社のDXは全社全部門での取組みであり、「SEQCDD」の広範囲な領域での改善強化をデジタル活用により加速・深化させるもので、その成果については、原価・経費削減のように収益に直接表われる場合と、環境負荷低減のように収益には直接には表われない場合がある。そこで同社では、収益性での成果評価だけでなく、間接的・中間的な成果評価として、「SEQCDD」の改善状況を把握して評価している。

モノづくり現場における中間的な指標である「SEQCDD」の改善状況については、例えば

S(安全):映像分析による不安全行動の検知
E(環境):設備アイドリング稼働監視と対策によるCO2削減
Q(品質):データ分析による不良低減
C(コスト):AI活用で外観検査を自動化し製造コスト削減
D(納期):工程進捗・仕掛の見える化による仕掛在庫削減
D(開発):製品へのセンサ・通信機能内蔵による製品付加価値増による顧客満足度向上

といった成果をはじめ、事業や製品の特性に応じた多様な成果を挙げる。具体的には、「モノづくり力強化」の革新的な取組みにおいて、以下のような成果を挙げている。
「製造工程において検査を自動化する不良判定AIの開発では、学習画像の収集および再学習によるAI開発の長期化が課題であったが、生成AIにより画像を大量に生成し、学習/再学習に使うことでAI開発期間を大幅に短縮しました。」
「工程数や特性値が膨大なため不良の原因追及が難しい半導体製品の製造工程において、工程間のデータを紐づけ分析することで原因工程を特定し、不良品を大幅に低減しました。」
「製品開発において、デジタル技術を製品に組み込むことにより、製品をおつかいくださる顧客の業務の大幅な改善を実現した例として、工作機械を使用した切削加工現場では、加工状態のモニタリングが難しいという課題がありましたが、当社製品である工具にセンサ、通信機能等を内蔵させることにより、定量的な工具異常検知や加工条件最適化を可能としました。」

営業部門では、製造や在庫に関する情報がタイムリーに把握できるようになったことで、お客様からの問合せに対して、より迅速かつ正確に回答できるようになり、お客様からの信頼向上につながっていることを実感している、と話している。
製造現場においても、「モノづくりナビ」の導入展開によりデジタル化が進み、「データレディ」な土壌ができつつあり、例えば、製造過程で不良が発生した際に、不良原因の特定が大幅に改善できるようになっている。具体的には、
「従来は、不良発生後にデータを取得し、収集するだけで通常4週間程度必要だったが、それが「すぐ」開始できるようになった。」や
「従来は、課題解決の確度を上げるために、要因の範囲を拡大し、実験を追加するなどが必要だったが、それが優先順位付きで要因候補が提示され、早い段階で確度の高い要因を検討できるようになった。」が挙がっている。
生成AIについては、入出力情報が社外に残らないセキュリティ対策を実施した社内用チャットシステムの活用が急速に進んでおり、社員から「フォーマルなスピーチに適した英語表現を調べたり、誤字脱字をチェックしたり、助詞が重なる表現の修正案を提示してもらったり、と気軽に使えるので仕事の効率が確実に上がっている」の声が寄せられている。

今後のビジョン・計画として、引き続き「全社活動」としてDXを推進していくという。具体的には、全社共通の仕組み・ツールである「全社DX基盤」の展開と活用を図りながら、各部門の「部門DX計画」を着実に進め、「SEQCDD改善強化」を具体的に達成していくことを目指す。
高橋氏は、「製造業の要である『SEQCDD改善強化』によって、『住友電工グループ2030ビジョン』において『3つの推進力』とした『研究開発』『サプライチェーン』『モノづくり』を強化し、同社の経営の考え方である『五方よし』(公益を重視し、当社のステークホルダーである、『お客様』『従業員』『お取引先』『地域社会』『株主・投資家』との共栄を図る)を実践してまいります。このようなDXの取組みを通じ、地域社会をはじめとする多様なステークホルダーとの共栄に寄与してまいります」と締め括った。

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