関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

金賞(中堅・中小企業部門)株式会社パーシテック

代表 水尾 学氏

遠隔作業支援システムを活用し、
農業の未来を切り開く。
農業を魅力的な仕事に

京都市にある株式会社パーシテックは、生産者視線でスマート農業の支援に取り組んでいる。代表の水尾氏が、“デジタル技術”と対局の位置にある“農業分野”を融合させる時代に入ったと感じ、新しい農業スタイルを目指して2016年に創業した企業だ。
水尾氏はサラリーマンを経て、実家の果樹農園を継承するにあたり、「足腰が弱くなった父の技能をどのように伝承するか?父が現場へ出向かずとも、”技能伝承”ができないものか?」という課題に直面した。父の果樹農園と同様に、後継者不足のため高齢者の技能が伝承できない農家が日本中にある。農業を、後継者となり得る若い世代にとって魅力ある産業に変えていく必要があると考えていた。

電子機器関連企業に勤めた経験のある水尾氏は、手始めにIT(スマートグラス)を活用した農業の遠隔作業支援の取り組みをスタート。並行して、農園のデータ(温度・湿度・日照など)の収集とドローン運用による上空からの作物の病気・育成状況の確認にも取り組んだ。手ごたえを感じ、センサーメーカーやスマートグラスメーカーと運用実証実験など協力関係を構築、機器運用上に有効な機能特許を取得したほか、全国の協力農園とのパイプを強化していった。
現在、パーシテックではスマート農業分野の支援事業として、①市販センサーシステムのカスタマイズ事業、②ARを駆使した遠隔作業支援ビジネス関連事業、③ドローン運用ビジネスの3点の事業を展開している。

展開中の各事業の具体的な内容は、以下の通り。

  1. 市販センサーシステムのカスタマイズ事業
    ・屋外設置仕様に改良
    ・電源をバッテリー利用向けに改造
    ・運用環境に合わせた応用ビジネス(再エネ利用による電源確保)
  2. ARを駆使した遠隔作業支援ビジネス関連事業
    ・関連ツール商品販売(遠隔ソフト・スマートグラス)
    ・技能伝承への運用コンサルティング
    ・応用ビジネス(遠隔収穫体験)
  3. ドローン運用ビジネス
    ・リアルタイム映像配信など(遠隔映像の確認)
    ・農薬散布

ドローン運用に関しては、ドローンカメラ映像をリモート技術と組み合わせることで、複数カ所に同時配信する事を可能にして、遠方からもリアルタイムに現場の状況確認ができるようにした。関係者がすぐに自分の仕事に取り掛かれるなど、作業効率は格段に上がる。

パーシテックのスマート農業は、導入先の各施設からも高評価を得ている。例えば、株式会社京都宮津オリーブでは、2022年からスマートグラスを用いた遠隔作業支援システムを導入している。滋賀県と宮津市をリアルタイムでつなぎ、柿農家でもある水尾氏が柿の選定指導を行った。大学からもスマート農業の取り組み視察に来られるなど、注目を集めている。
また、「遠隔作業支援技術を用いた遠隔収穫体験」は、産地と消費者を直接つないだ“新しい体験型ビジネス”として着想。栽培農家と会話をしながら子どもが農業について学ぶことができるプログラムで、保護者からは「収穫時期の体験だけでなく、果樹育成の各工程を子どもに見せてほしい」といったニーズも聞かれたほか、学校関係者からの引き合いもあった。幼少期から定期的に農業へ触れ合うことで興味を持ち、将来の担い手として成長することも期待される。
「以前から当社の取り組みに注目されている北海道の農業団体が視察に来られました。北海道は圃場が広大で移動距離も長く、遠隔作業支援技術の効果がとても大きい事を知らされました。」と水尾氏。さらに、近年の急速な温暖化により、北海道に農産品が集中してくる傾向があり、運用が増える可能性が高い農業資材メーカーからも、北海道への作物移転拡大を裏付ける情報が入っているとのことだ。水尾氏は、「2016年創業当時は、“このような取り組みが認知されるのだろうか”と懐疑的であったが、農業従事者の高齢化や後継者不足、温暖化による産地シフトの傾向から、遠隔作業支援の必要性が現実のものとなってきている。」と語る。

今後のビジョン・計画として、

  1. 観光業と連携するなど、遠隔収穫体験を身近なビジネスに育てる
  2. 温暖化による産地シフトをサポートするビジネスへの取り組み
  3. 利用環境のニーズに合わせたカスタマイズを行う“パーシテックモデル”の提供

などを水尾氏は上げている。
また水尾氏は、「機材のスペックアップ(AI化・VRとの融合)とともに、体験できる仕組みを取り込んでいくことや、精度の高いAI判断ができる仕組みを完成させ、市場に導入させていきたい。」と今後の目標も聞かせてくれた。

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