金賞(中堅・中小企業部門)IXホールディングス株式会社
執行役員 グループCIO
兼 IXデジタル株式会社 代表取締役 神山大輔氏
伝統を守りながら革新を取り入れ
地域社会に貢献し
新しい価値の創出を目指す。
IXホールディングス株式会社は、ロングセラー製品である「おにぎりせんべい」を主力製品とする株式会社マスヤを中核に、菓子製造、酒類製造、介護事業、ホテル、ブライダル、商社、旅行など多様な事業を展開する企業グループである。
IXホールディングスは、社員の仕事の充実や地域貢献が盛り込まれた経営理念に基づき、日々お客様や地域の方々、従業員の満足のために努力を重ねている。
社名である「IX」は、伊勢志摩(I)を新しい時代に向かって力強くトランスフォーム(X)させたいという思いから名付けられた。
「当社は、“一番大切な人に届けたい“本物”をつくる” “仕事を通して人生の幸福を追求する” “地域社会の豊かさづくりに貢献する”という三つの経営理念を掲げています。この理念を指針に、お客様、従業員、そして地域の皆さまにとってより良い価値や満足を提供することを目指し、日々努力と研鑽を重ねています。」と語るのは、グループCIO 兼 IXデジタル株式会社 代表取締役の神山氏
「小さな成功を積み重ねる」ことをDX推進の鍵としているIXホールディングスでは、「身の丈にあったDX」を大切にし、少しずつ着実に前に進むことを重視している。システムをSaaSに移行する、ペーパーレス化を進めるといった取り組みから始め、現在は外部の副業・兼業人材の力を借りたり、オープンイノベーションを活用したりすることで、自社にない知見を積極的に取り入れる努力を続けている。
「こうした取り組みを継続し、やがて大きなDXの波を作り出すことを目指しています。“できることから始める”という姿勢を忘れず、一歩一歩確実に前に進むことが、地方企業である私たちにとって最も現実的で効果的なアプローチだと考えています」と神山氏は話した。
DXに取り組むこととなったきっかけは、2019年4月、神山氏がグループCIOとして就任したタイミングに遡る。当時、グループ全体で情報システムが分散しており、業務効率の低下が顕著であった。また、コロナ禍の影響により、従来のビジネスモデルやプロセスでは成長が難しいという危機感が高まった。
「特に、各事業会社のITシステムが独自にカスタマイズされていたため、保守や運用の負担が大きく、新しい技術への対応が困難な状況でした。このような課題を解決し、グループ全体の競争力を強化するためには、デジタル技術を駆使したビジネスモデルやプロセスの再構築が必要だと判断しました。さらに、地域密着型の事業を展開する中で、地方ならではの課題を解決しつつ、地域社会とともに成長する未来を目指したいという思いもDX推進の原動力となりました。」と神山氏。
現在、IXホールディングスでは以下の3つのDX戦略を柱として、具体的な取り組みを進めている。
シェアードサービスの推進
グループ内のバックオフィス業務を統合し、業務運営の効率化とコスト削減を図る。具体的には、会計、勤怠管理、給与計算などのシステムを標準化・共通化し、経営における迅速な意思決定を可能にする基盤を構築している。
オープンイノベーションの推進
新しい技術を活用した共創プロジェクトを立ち上げ、地域社会と連携した価値創造を目指す。特に、AIを活用した製造現場の効率化や、カメラとセンサーを活用した安価なソリューション開発に取り組んでおり、その成果を中小企業へ展開する予定。
デジタルリテラシーの向上
全従業員がデジタル技術を理解し、活用できる能力を身につけるため、ITパスポート取得を推奨し、社内での講座や外部講師によるセミナーを開催。
また、既存のオンプレミス環境からSaaSへの全面移行を進め、システム運用の負担を軽減するとともに、BCP(事業継続計画)対策の強化にも取り組んでいる。この結果、場所や時間に制約されずに業務を行う体制を整えた。さらに、副業・兼業の外部人材を積極的に活用することで、社内外の知見を融合させ、小さな改善を積み重ねながら大きな成果へとつなげているという。
IXホールディングスでは、DX推進の成果として以下の5点を感じているという。
統一されたコミュニケーション基盤の構築
グループ全体でSlackを採用し、社内外のスムーズなコミュニケーションを実現。この取り組みはSlack社からも高く評価され、ユーザー事例として紹介された。
副業・兼業人材の活用による成果
外部の知見を積極的に取り入れ、紙の申請書の電子化や在庫管理システムの設計など、小さな改善を積み重ねた。その結果、ペーパーレス化や業務プロセスの改善に加え、組織全体のデジタル化を加速することができた。
地域社会と連携した新たな価値創出
三重県庁のオープンイノベーション推進事業に参画し、AI技術を活用した製造現場の課題解決に取り組んだ。この成果を基に、中小企業にも導入可能な安価なソリューションの開発に成功した。
DXセレクション2024に選定、認知度向上
DXに関する取り組みが評価され、経済産業省の「DXセレクション2024」に優良事例として選定された。また、2024年10月には「IXデジタル株式会社」を設立し、地域のDXを推進する新会社として事業を展開している。
こうしたDX推進の取り組みとその成果は社内外からの評価も高く、以下のような声も寄せられているという。
「これまで紙で行っていた業務がデジタル化され、作業の効率が格段に上がりました。空いた時間を新しいアイデアの立案に使えるようになり、やりがいが増しています。」(製造部門社員)
「SlackやZoomといったコミュニケーションツールの導入で、他事業会社との連携がスムーズになりました。グループ全体が一体感を持って動けるようになったと感じています。」(総務部社員)
「ITパスポートの取得を目指して学習を進める中で、業務に役立つ知識が増えました。今では新しいシステムの導入も不安なく取り組めます。」(若手社員)
「ペーパーレス化や業務効率化の取り組みを見学し、弊社でも導入できる部分を参考にさせていただきました。地方企業でもここまで進んだDXを実現できるとは驚きです。」(取引先A社)
「グループ全体でのデジタル化の成果を聞き、信頼感がさらに高まりました。今後も安心してビジネスを任せられそうです。」(取引先B社)
「地域の中小企業が抱える課題解決に積極的に取り組む姿勢に感銘を受けました。これからも地方発の成功事例を増やしていただきたいです。」(地元企業経営者)
「デジタル化支援を通じて地域社会に貢献している姿は、地元住民として誇らしいです。」(伊勢志摩地域住民)
最後に、神山氏から今後のビジョン・計画を教えていただいた。
DX戦略のさらなる実行
現在進めている「シェアードサービス」「オープンイノベーション」「デジタルリテラシー向上」の3つの戦略を強化し、グループ内外でのDX推進を加速。特に、バックオフィス業務の標準化・共通化を2年以内に完了し、各事業会社からのデータを一元化することで、迅速な経営判断を支援する体制を構築する。
地域DXの推進と展開
新会社「IXデジタル株式会社」を拠点とし、伊勢志摩地域の企業と連携しながらDXを推進する。特に、地方の中小企業が抱える課題に対し、これまで培ったノウハウを活かしたソリューションを提供し、地域経済の活性化と持続可能な成長を目指す。
デジタルリテラシー向上の継続
全従業員に対して、デジタル技術を学ぶ機会を引き続き提供。ITパスポート取得を支援する講座の継続や、外部講師を招いたセミナーを通じて、従業員一人ひとりのスキル向上を図り、DX推進の効果を最大化する。
新技術の活用とノウハウの横展開
AIやIoTを活用した安価なソリューション開発を進め、製造現場だけでなく他業種にも展開可能なモデルを構築する。この取り組みにより、地域企業が新たな価値を創出できる基盤を提供する。
地方ならではの強みを活かした未来創造
地方企業の柔軟性や迅速な意思決定を活用し、地域課題を解決するだけでなく、新たなビジネスチャンスの創出を目指す。地方発の成功事例を全国、さらには海外へと展開することで、地域発信の新しい価値を届けていきたい。
神山氏は「これからも伝統を守りながら革新を取り入れ、DXを通じた新たな挑戦を行い、地域発の企業として新しい価値の創出を目指してまいります。」と言葉を結んだ。