関西DX戦略2025

公益社団法人 関西経済連合会

近畿総合通信局長賞株式会社eWeLL

代表取締役社長 中野剛人氏

在宅医療のDXを推進し
すべての人が
安心して暮らせる社会の実現に貢献

株式会社eWeLLは、在宅医療のDX支援を推進し、医療従事者と在宅療養者に新しい価値を提供している。中核事業は、在宅医療の重要な役割を担う全国の訪問看護ステーションに向けて、日々の業務全般を効率化するクラウド型電子カルテ「iBow」(アイボウ)等の自社開発システムをSaaSで提供するクラウドソフトウェア事業だ。
「eWeLLは“在宅医療のプラットフォーマー”として、医療従事者の皆様の業務効率化と在宅療養者のQOL向上に貢献し、すべての人が安心して暮らせる社会の実現を目指しています。」と創業者であり代表取締役の中野氏は語る。

eWeLLが在宅医療DXの事業に取り組んだきっかけは、創業者の個人的な経験と訪問看護業界の課題認識が融合したことにある。中野氏は、前職で水上バイクのプロライダーとして世界2位になるなど活躍していたが、20代の時に肝臓破裂の事故に遭った。「その事故の際に看護師に命を救われ、恩返しを決意したことがeWeLL創業の原点です。その後、約10カ月間の長期入院を経験する中で、看護師の献身的なケアと重要な役割、そして過酷な業務実態を目の当たりにしたことも、DXで看護師の業務を支援する当社事業の基礎となっています。」と記憶を思い返す。

また、当時、医療の現場は病院中心だったが、少子高齢化の加速する日本において今後は在宅への移行が進み、担い手となる訪問看護の需要が高まると中野氏は確信していた。実際、訪問看護の利用者数は2013年の約41万人から、2023年で約111万人と10年間で約2.7倍に増加している。一方で、訪問看護業界には慢性的な看護師不足や手書きカルテなどの非効率な業務プロセス、廃業率の高さ、さらに労働集約型ビジネスであり人件費率が高いなど、多くの課題が山積していた。
限られたリソースで多くの療養者に適切なケアを提供するには、訪問看護業務の効率化が社会的急務であると考えた中野氏は、ITを活用して訪問看護師の生産性を向上させ、これらの課題を解決するためのDXに取り組むことを決意。そして2012年にeWeLLを創業し、「世の中にあるものは活用し、まだ無いものは私たちの手で創る」という理念のもと、訪問看護に特化したクラウド型電子カルテ「iBow」を開発。2014年から提供を開始し、業界のDXを推進していった。

eWeLLは、ITを活用して訪問看護をはじめとする在宅医療の業務を効率化して、社会課題である看護師不足を解消し、全国の在宅療養者のQOL向上に寄与している。具体的には、以下の3つの側面からDXを推進している。

日々の業務全般の効率化

電子カルテ「iBow」を通じて、従来手書きで行っていた書類業務をICT化し、複雑なオペレーションを効率化。例えば、入力内容を自動的に他の書類に反映する、業務負荷の高い保険請求の書類を自動作成するなど、看護師のバックオフィス業務の負担を大幅に軽減している。

情報共有の円滑化

「iBow」により、スタッフ間の情報共有をリアルタイムで正確に行えるように。また、カルテ確認のために事務所へ戻る必要がなくなり、移動時間の削減につながった。

データ活用による新たな価値創造

「iBow」を通じて蓄積された慢性期医療データを活用し、生成AIによりワンクリックで医療文書を自動作成する「AI訪問看護計画」・「AI訪問看護報告」、訪問ルートとスケジュールを最適化する「AI訪問スケジュール」など新たな医療支援サービスを開発している。

これらのDXの取り組みにより、看護師の生産性が向上し、より多くの時間を直接的な看護ケアに充てることが可能になった。さらに、eWeLLのDXは単なる業務効率化にとどまらず、訪問看護ステーションの経営安定化や、地域医療の維持・発展にも貢献している。 例えば、「iBow」ユーザーは新規開業ステーションの廃業率が全国平均より3.6倍改善しており、地域の医療資源を守ることにも寄与している。「このように、eWeLLのDXは、看護師や訪問看護ステーション、在宅療養者、そして地域医療全体に価値を提供し、超高齢化社会における医療課題の解決に貢献しています。」と中野氏は話す。

eWeLLのDXへの取り組みは在宅医療業界に大きな変革をもたらし、多岐にわたる成果と効果を生み出している。特に成果が顕著なのは「iBow」が普及したことによる訪問看護の生産性向上だ。

訪問時間の短縮

アナログ運用の訪問看護ステーションでは1件の訪問に要する時間が平均112分であったが、「iBow」利用により78分に短縮。

訪問件数の増加

1日あたりの訪問件数が3件から6件に増加。

売上の倍増

人員を増やすことなく売上を倍増させ、ステーションの経営を安定化。

看護の質の向上

バックオフィス業務の効率化で時間を創出し、看護師がより多くの時間を直接的な看護ケアに充てることが可能になった。より多くの在宅療養者に質の高い看護ケアを届けられる環境を提供し、地域医療の発展に寄与している。

訪問看護ステーションの経営安定化

「iBow」ユーザーは新規開業ステーションの廃業率が全国平均より3.6倍改善しており(全国平均5.1%に対し「iBow」ユーザー1.4%)、地域の医療資源の持続的な発展に貢献。

体制の整備

24時間対応体制の確保や、様々な職種との連携、働きやすい環境づくりなど、国から求められている訪問看護の体制整備が進んでいる。

労働環境の改善

持ち帰り仕事など常態化していた働き方が改善され、残業を抑制し、離職率の低下につながっている。eWeLLのDXへの取り組みは単に業務効率化にとどまらず、訪問看護業界全体の変革と、在宅医療の質の向上に寄与している。さらに、蓄積されたデータを活用した新たなサービス開発により、超高齢社会における医療課題の解決に向けた取り組みも進展していた。

eWeLLの在宅医療DXへの取り組みは、社内外からも反響が大きい。
顧客である訪問看護ステーションからは、「iBow」の導入により業務効率が上がり、時間が生み出され、「看護の質向上」と「持続可能なサービス体制づくり」のために時間を使えるようになったという声が多く寄せられている。
また、従業員からは、自社の取り組みが社会課題の解決に直接貢献していることへの誇りと使命感が高まり、今後のさらなる成長への期待感を感じているという声が挙がっている。実際、従業員の80%がeWeLLの株主になっており、これにより、全員が経営者と同じ視点で事業に取り組むことができ、会社を大きく躍進させる原動力となっているという。
さらに、2021年「第16回ニッポン新事業創出大賞」にて『経済産業大臣賞』、2022年「第21回Japan Venture Awards」にて『中小機構理事長賞』、2023年『EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2023ジャパン』を受賞するなど、KANSAI DX AWARD以外でも取り組みが高く評価されている。

今後も在宅医療のプラットフォーマーとして、蓄積した慢性期医療ビッグデータを活用しさらなる価値創造を目指す。

生成AI技術の活用

「AI訪問看護計画」「AI訪問看護報告」に続き、2025年には「AI訪問スケジュール」の提供開始など、生成AIを活用したさらなる新機能の開発と展開を進めている。これにより、看護師の業務効率をさらに向上させ、より多くの時間を創出し、看護の質の向上に寄与する。

地域医療連携の強化

地域全体の医療リソースを最適化する地域包括ケアプラットフォーム「けあログっと」の機能をさらに強化し、病院および地域包括ケアシステムに関わる多職種間のより広範な連携を可能にし、地域医療の効率化と質の向上に貢献する。

データ活用の拡大

蓄積された慢性期医療ビッグデータを活用し、在宅医療の情報連携システム「eWeLLプラットフォーム」などの新たなサービスの開発を進める。これにより、eWeLLの保有データだけでなく様々な在宅医療提供者・DX企業が持つ多様な在宅医療データを統合し、プッシュ型で情報を共有するPHRサービスの提供など、より包括的な在宅医療支援サービスの提供を目指す。
最後に、「eWeLLはこれからも『ひとを幸せにする』というミッションの実現に向けて邁進し、すべての人が安心して暮らせる社会の実現に貢献してまいります。」と中野氏は結んだ。

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