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Kansai D&I News
2023.4.26 オピニオン

女性活躍のトップランナーに聞く
――日本生命保険  山内 千鶴 氏
上司の魔法の言葉でつながる キャリア

日本生命顧問 山内千鶴

女性活躍のトップランナーに聞く
――日本生命保険  山内 千鶴 氏
上司の魔法の言葉でつながる キャリア

日本生命保険 顧問
山内千鶴氏

受付係からスタートして結婚、出産後も仕事を続け、40代で総合職に。営業管理職、(来店型の営業店舗である)ライフプラザ店長、D&Iを推進する輝き推進室長、執行役員CSR推進部長などを経て2019年、日本生命保険初の女性取締役(常務執行役員)に就任。女性活躍のトップランナーとして歩んでこられた山内千鶴さんに、ご自身の経験から得た考えや後進へのアドバイスを尋ねた。

――これまでのキャリアから、ご自身でターニングポイントであったと思われることを3つ挙げてください。

 一つ目は、出産を機に仕事を辞めなければならないと思い、上司に相談したら「君は会社にとってなくてはならない人だから続けたらいいよ」と言ってくれたことです。私が入社した50年近く前は、女性は3年ぐらい勤めたら結婚して会社を辞めるのが当たり前でした。でも私にとっては自分がやりたいことができるようになり、仕事が面白くなったころ。受付スキルを高めようとプロの接遇や発声の方法を学ぶためにホテルや電話会社へ行って話を聞き、メンバー皆でスキルアップに取り組みました。すると、お客さまからお褒めの言葉をいただき、達成感を得られる。上司は見てくれていたんですね、仕事にやりがいを感じていることを。あの魔法の言葉があったから、仕事を続けられたと思っています。

 二つ目は、42歳で総合職にコース変更をしたことです。打診された時、2番目の子供がまだ高校生で、転勤のある総合職を務めることに躊躇しました。すると上司から「勤務地については人事が配慮できる。子育て中であることと、キャリアをどう築くかは別の話。問題の先送りをせずに、自分がどうしたいのかを考えなさい」と言われたのです。キャリアを積むことから逃げるなということだと理解しました。別の上司からも「後に続く後輩たちのためにも、いばらの道を切り開くのがあなたの役割」と言われました。そうした後押しもあって営業部門の管理職に就いたのですが、しばらくは自分の居場所がなく辛い日々でした。

 三つ目は、経営と接点を持つ労働組合や、本部組織の輝き推進室長、CSR推進部長の仕事を通して、視野や見識が広がったことです。何かを決断するときは腹をくくらなければならない。リスクやチャンスをどう判断し、覚悟を持って実行するか、経営の仕事の醍醐味を味わいました。

女性活躍のトップランナーに聞く――上司の魔法の言葉でつながるキャリア

――これまでで最もご苦労されたエピソードがあればお話しください。 また、その当時の自分にアドバイスするとすれば、どのような言葉をかけますか。

 苦労したのは総合職にコース変更したばかりの時に配属された、営業部門のマネジメントですね。総務畑出身で、営業経験が全くない私に任されたのは、お昼休みに企業を訪問し、保険提案を行うチームのリーダー。大学を出たばかりの新卒女性社員がメンバーです。営業の経験も知識もスキルも無い無い尽くしの私ですが、何か教えないといけないと、彼女たちの営業活動日誌を見ながら、面談を行いました。面談といっても、なぜ成果が出ないのか尋問することが多く、繰り返すなかで彼女たちがやる気をなくしていくのが分かりました。私自身も貢献できるところが見いだせず、苦しい思いをしていました。

 そんなとき、たまたま電車の広告で見たコーチングスキルの講習を受けたのです。その人がやりたいことをうまく導き出して、フィードバックするのがコーチング。成果だけを求めるのではなく、とにかく話を聴くことにしました。何か困っていることはないか、私にできることはあるか、と聴くとどんどん言ってくれるわけです。それからは営業の同行を求められたり、仕事の悩みやキャリアについて相談されたりするようになりました。

 当時の自分にアドバイスするとしたら、「肩の力を抜いて心を開くこと。一人で抱え込まず、足りないことはその道のプロに聞き、自分なりのやり方を構築していくこと。」と伝えます。

――これまで様々な仕事や役職を経験されていますが、共通してご自身が大事にしている考えを教えてください。

 一つは、自分の仕事に誇りを持ち、そのプロになること。もう一つはしっかりと対話することです。対話の質を上げれば、別の角度から意見をもらえるし、視座があがり、新たな課題に気付く、良いアイデアが浮かぶなどの効果があり、自分の考えにも自信が持てるようになります。また、対話を通じて背中を押され、少し難しい課題に挑戦することが成長につながると考えています。

――日本における女性活躍の現状と今後をどう捉えていますか?

 日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中116番目(2022年)。多少進んでいるとはいえ、他国のスピードに比べて遅いです。原因は、性別役割分担意識、いわゆる無意識の偏見があること、特に経営層に多様性を尊重することが組織の強さにつながることが腹落ちしていないことがあります。長時間労働を是とするなど、自分たちと違う考えを受け入れないという旧態依然とした仕事のやり方では通用しない時代に入っていると自覚すべきです。一方で特に女性には、長時間働くことをよしとすることや、会議で相手の考えを論破するような縦割りの仕事のやり方に違和感を持ってほしい。流されずに違和感を大事にし、変わっていく人を増やすことが多様性につながります。単に女性管理職を増やすことが多様性ではなく、多様な考えを持つ人材がいることで組織が強くなり、会社の成長につながります。

ジェンダーギャップ指数(2022) 上位国及び主な国の順位

順位 国 名 前年値 前年からの
順位変動
1 アイスランド 0.908 0.892
2 フィンランド 0.860 0.861
3 ノルウェー 0.845 0.849
4 ニュージーランド 0.841 0.840
5 スウェーデン 0.822 0.823
10 ドイツ 0.801 0.796 ⬆1
15 フランス 0.791 0.784 ⬆1
22 英国 0.780 0.775 ⬆1
25 カナダ 0.772 0.772 ⬇1
27 米国 0.769 0.763 ⬆3
63 イタリア 0.720 0.721
79 タイ 0.709 0.710
83 ベトナム 0.705 0.701 ⬆4
92 インドネシア 0.697 0.688 ⬆9
99 韓国 0.689 0.687 ⬆3
102 中国 0.682 0.682 ⬆5
115 ブルキナファソ 0.659 0.651 ⬆9
116 日本 0.650 0.656 ⬆4
117 モルディブ 0.648 0.642 ⬆11

――最後にD&I推進担当者と働く女性へメッセージを。

 D&I推進担当者の皆さんは、社内外の方々と交流する機会が比較的多いのではないでしょうか。そこでの「学ぶ姿勢」を大事にして、積極的に実践に活かしてください。これをすればD&Iが進むという手っ取り早い魔法はありません。業界や会社規模等の違いを乗り越えて、好事例を自社に当てはめるためにはどうしたらいいか、徹底的に考え、熱意を持って取り組んでほしい。多くの意見が出るのは期待されているからです。

 長寿社会になり、例えば70歳で仕事を辞めても30年は生きていく時代です。心豊かな人生をおくるためにも、女性の皆さんには、自分の人生を誰かにゆだねるのではなく、自分自身の力でキャリアを重ねて、働き続けてほしいと思います。