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Kansai D&I News
2023.6.26 What’s new

外国人材の制度の見直しについて

 コロナ禍で減少が続いた在留外国人数は、入国規制が緩和された2021年春以降急速に回復し、2022年末には307万人を越えて過去最多を更新した。増加の背景には日本側の人材不足と、それを補う形で整備が進む在留資格要件の拡大や緩和があり、またコロナ禍で傷んだ世界経済の影響で「日本に行きたい」という外国人側のニーズも増加を後押ししている。

 政府は23年4月から、従来の高度人材ポイント制とは別に、学歴・職歴や年収が一定水準以上であれば「高度専門職」の在留資格を付与したうえで、家事使用人の雇用や配偶者の就労を認めるなど、現行より拡充した優遇措置を認める「特別高度人材制度」(J-Skip)を導入。また優秀な海外の大学等を卒業し、日本で就職や起業等を準備する場合に「特定活動」の在留資格を付与し、最長2年間の在留が可能となる「未来創造人材制度」(J-Find)も同時にスタートした。

 こうした高度人材への枠組みに加え、内外から人権上の課題が指摘されている「外国人技能実習生制度」の廃止が法務省の有識者会議の中間報告で提言されたり、特定の分野で一定の技能を持つことを試験で確認した場合に付与される「特定技能」のうち、家族帯同が認められる「特定技能2号」の業種の追加も検討されたりと、政府の基本姿勢は外国人受入れの課題を改善し、拡大する方向で進展している。

 国境を越える人の移動は、経済的・政治的な理由から他の国へ移動したいという「プッシュ要因」と、高い賃金や豊富な就労機会、寛容な政治姿勢で他の国から人を惹きつける「プル要因」の2つで考える必要がある。経済成長によるアジアからの「プッシュ要因」の減少に加え、円安の進行や外国人が働きにくい雇用慣行が日本の「プル要因」を押し下げており、日本で今後も外国人が増え続けるかどうかは不透明だ。6月9日に成立した改正入管法は外国人の収容と送還のルールを見直すものだが、難民認定のハードルの高さが「外国人に閉鎖的な国」という印象が広まると、日本へ行きたいという「プル要因」はさらに下がってしまう。自由で寛容な国で暮らしたいという世界の人々のトレンドを踏まえた政策こそが、日本への外国人受入れを促すことにつながるということを頭に置いておきたい。

 ところで、外国人受入れについては在留資格認定など「入口」の議論ばかりが注目されるが、企業でも採用した人材が活躍できるかどうかは組織の風土や雇用慣行が大きな影響を与えるのと同じように、外国人が活躍できる社会の形成には来日後の生活が充実したものとなるような取り組みが欠かせない。外国人の収容・送還のルールを変更する改正入管法が国会で成立した同じ日、政府は16回目となる「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を開催し、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」 と「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」 の令和5年度改訂版を決定した。 前者(総合的対応策)は2018年から毎年策定し、日本語教育や生活相談など、各省庁が取り組む外国人との共生社会に必要な施策を整理したもの、後者(ロードマップ)は2022年6月に向こう5年間の政府の取り組みを「安全・安心な社会」「多様性に富んだ活力ある社会」「個人の尊厳と人権を尊重した社会」の3つのビジョンに向け、「日本語教育等の取り組み」など4つの重点事項に整理したものである。

 総合的対応策やロードマップに示された施策は、自治体などが交付金を申請し、NPO等とともに実施することが期待されている。外国人を雇用する事業所からは「日本語教育を自前でやるのは限界がある」「住まいの確保や地域住民との交流に苦労している」といった声をよく聞く。また災害時や感染症対策の情報提供も、外国人が安心して暮らすための施策の充実は急務である。企業においても採用だけでなく、家族も含む外国人の暮らしの充実を視野に入れ、自治体やNPOと連携した外国人との共生社会づくりに力を注いでいく必要がある。

  1. https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/nyuukokukanri01_00140.html
  2. https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/04_00033.html
田村 太郎(たむら たろう)

≪執筆者プロフィール≫
田村 太郎(たむら たろう)
 一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事

兵庫県伊丹市出身。阪神・淡路大震災で被災した外国人への支援を機に「多文化共生センター」を設立。自治体国際化協会参事等を経て、2007年から「ダイバーシティ研究所」代表としてCSRや自治体施策、ソーシャルビジネスを通じたダイバーシティの推進に携わる。東日本大震災直後に内閣官房企画官に就任し、官民連携による被災者支援を担当。大阪大学大学院、日本女子大で非常勤講師、復興庁・復興推進参与等を兼務。共著に「多文化共生キーワード事典」「企業と震災」「つないで支える」「好きなまちで仕事をつくる」などがある。