ダイバーシティ・インクルージョン部 部長
三屋 ひとみ 氏
企画推進グループ グループ長
野瀬 麻里子 氏
世界各地に400社超・約28万人の社員を有し、電線・ケーブルの製造技術をベースに事業領域を拡大する住友電工グループ。2020年に社長直轄のダイバーシティ・インクルージョン部を設置し、女性活躍推進に取り組んでいる。ダイバーシティ・インクルージョン部部長の三屋ひとみさんと企画推進グループグループ長の野瀬麻里子さんに、具体的な取り組みと成果、課題についてお話を伺った。
――住友電工で行っている女性活躍推進の具体的な取り組み内容をお聞かせください。
三屋D&Iは女性活躍推進だけの取り組みではなく、組織の持続的な発展や成長のために、組織の多様な人材の能力を最大限発揮して、成果を創出する1つの手段です。D&I実現のためには、組織ビジョンの達成に向けて一人ひとりが自己の役割・責任を果たし、同じ目標に向かって協働することが前提となります。
当社では、D&Iのファーストステップは女性だと考えており、女性を切り口とした施策の一つとして取り組んでいるのが、2020年から開始した課長・係長級女性の成長支援を目的にしたメンタリングプログラムです。各部門より将来さらなる活躍を期待される課長・係長級の女性社員をメンティとして選抜、また人材育成にたけた部長級社員をメンターとして選抜し、部門が異なるようメンター・メンティを組み合わせます。プログラムでは、まず多様性を活かした組織運営に関して外部有識者のセッションで各人の自己理解や考えを深化する機会を提供した上で、メンター・メンティで、お互いの価値観や仕事における悩み、中長期的な成長やキャリア、人材育成や職場運営など幅広く自由な話題を定期的に対話します。本プログラムを通じて、女性社員の自律的なキャリア形成支援や個を活かす人材育成の風土醸成を図っています。
加えて、2016年から女性マネジャー育成計画を運用しています。部長・部内部長・課長等の資質を有する女性を対象にした育成計画を毎年1回部門から提出してもらいます。育成計画を検討する上で、マネジャー登用までに必要な経験・知識・スキルなどを棚卸しし、女性それぞれの状況に合わせた育成計画を立案することで、意識的な育成・実践に繋げるとともに、状況をモニタリングしています。それと併せて、組織の多様な人材の能力を最大限発揮して、成果を創出するためのマネジメント力強化にも取り組んでいます。
――取り組みを進める上で苦労した点や工夫している点を教えてください。
野瀬女性管理職については一朝一夕に増えるものではなく、20年前に女性総合職の採用数が少なく、離職率も高かったことが現在の結果に繋がっています。女性総合職の採用を始めてから、比較的配属が多かった研究部門や人事・経理などのコーポレート部門では定着が進み、現在では女性管理職も増えてきました。一方で、近年女性の配属が増えた事業部門や営業部門では、今まさに育成に取り組んでいるところです。部門や職種によって置かれている状況が異なるため、それぞれの部門の実情や課題に応じた対策・支援が必要であると考えています。
また、女性活躍推進・マネジメント力強化ともに、これまではダイバーシティ・インクルージョン部(以下、D&I部)が主になって対象者を集め、選抜研修や意識啓発を行うような施策を実施しており、一定の効果がありました。一方で、実際の各職場が直面している悩みの解消などに対して深く入り込むという事は出来ていませんでした。もし今、困っている女性やマネジャーがいれば、その方々への具体的な支援を検討したいと考えています。
三屋女性活躍推進の取り組みを着実に進めるための1つの取り組みとして、年に一回、各本部の経営トップである本部長を訪問し、D&I部のこれまでの取り組みや今後の取り組みの方向性等をご報告しています。例えば、女性活躍の一つの指標である女性管理職比率を部門・事業部ごとにお示しした上で、各部門での方向性、現在の取り組みや課題なども確認しています。
2020年にD&I部が社長直轄になり、取り組みのスピードが上がっています。会長や社長へ現場の声を伝えるとともに、経営トップから直接聞いた想いやお考えを関係者へ伝えていくことも私たちの役割と認識しています。
――取り組みの成果についてどのように捉えていらっしゃいますか?
野瀬女性活躍はD&I推進のファーストステップとして取り組んでいますが、当社グループにおけるD&Iの定義は『「多様な視点」「信頼関係」「能力の発揮」を掛け合わせ、社員の総和以上の力を発揮すること』として社内で浸透を図る取り組みを行っています。具体的には、チームビルディングやリーダーシップをテーマに、当社役員と外部著名人がオンラインで対談を行う研修も開催し、マネジャー層の関心が高い研修となっている事にも表れています。 申込者の7割が管理職で、外部の知見を聴くことで、視野が広がり、視座が上がっているのではないか。マネジャー層にD&Iをいかに自分事と思ってもらうかが重要であり、その点で取り組みの成果が出ていると感じています。
――取り組みの課題があれば教えてください。
野瀬組織を構成する人員が、かつてのような同質性の高い人員構成から、現在は女性・外国人・キャリア採用・シニア・共働き社員・育児や介護中の社員など、多様な人員構成に変化しています。事業環境や人々の就労観など外部環境も大きく変化する中で組織が成長発展を続けるためには、このような多様な属性の方々が持つ多様な経験・視点を取り入れ、同じ目標に向かって一致団結し、成果創出に取り組んでいかなければなりません。しかし、社員の生活環境や就労観等も変化する中で、円滑な組織運営に悩むマネジャーが増えています。そうしたマネジャーをいかに支援していくかが課題です。
三屋D&Iには幅広いテーマがあり、短期間に効果がでるものではありません。それでも着実に推進していくためには、D&I部だけではなく、外国人・キャリア採用・シニア・共働き社員など多様な人材の活躍推進し、社員一人ひとりが健康に活き活きと働ける働き方改革などを主導している人事部との連携が欠かせません。また、各部門の人事組織企画責任者などへもD&I部の取り組み等について定期的にご説明していますが、当社は多種多様な事業があり、各部門における人材と組織の重要テーマも多種多様であるため、全社一律で同じことに取り組むことで、部門が本来解決したいテーマに取り組みづらくなる懸念もあります。各部門の実情・課題に応じた具体的な支援をしていくことが今後の課題です。
――三屋さんは2019年に女性活躍をテーマに据えた米国派遣研修に参加されたと聞きました。日本とアメリカで女性活躍の現状や働き方に関する違いを感じましたか?
三屋米国は女性活躍が当然であり、あまり積極的な取り組みはしていないのではと思っていたのですが、実際に現地企業にお話を伺ってみると、日本同様、家事育児は女性がするという意識が根強く、アンコンシャス・バイアスについての取り組みを進めているというのが驚きでした。現地企業のあるD&I担当者から「D&Iは終わらない旅である。一度足を止めるとすぐに後退してしまう。粘り強く歩み続けなければならない」と言われ、米国でも歩みを止めることなく粘り強く取り組んでいることを知り、このテーマは簡単に解決しづらい根深い社会課題だということを改めて認識しました。
――今後、特に取り組んでいきたいことを教えてください。
野瀬マネジメント層へのアンケートでは、部下のモチベーションアップやコミュニケーションに課題を感じている人が多いという結果が出ています。働き方が大きく変わるなか、マネジメント層をうまくフォローできるよう努めていきたいと考えています。
三屋これまでは、D&I部が主体となって、選抜された女性社員を集めて行う施策等が中心でしたが、もっと現場への具体的なアプローチを検討していきたいです。どういう環境・マネジメント・仕事の進め方をすれば、組織の多様な人材の能力を最大限発揮して、成果を創出しやすいのか、多様性を活かした組織運営に必要な要素は何かなど研究・整理し、部門のキーパーソンと一緒に具体的な活動に取り組んでいきたいと考えています。また、多様性に富んだチームをリードし成果を創出できるマネジメント力強化についても継続して取り組んでいきます。事業環境や労働情勢等が絶えず変化し続ける中で、人材育成やマネジメントは常に進化しており完成はないという前提で、体系的に理論を学び続ける・他者から学ぶ等、何らかの具体的支援・仕組みを通して、マネジメントの悩みを個人的な悩みとして片づけるのではなく、組織課題として捉え、少しでも解消できる場を提供できればと考えています。
草の根レベルの取り組みも多いですが、組織の持続的な発展や成長のために、組織の多様な人材の能力を最大限発揮して成果を創出に資する取り組みの1つとして、関係者とよく連携し、諦めず、粘り強く取り組んでいきたいと考えています。