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Kansai D&I News
2023.11.9 オピニオン

多くの人にD&Iを自分ごと化してほしい、インクルーシブな社会を実現する環境づくり
――在日米国商工会議所 北野 美英 氏

在日米国商工会議所 北野 美英 氏

在日米国商工会議所 D&I委員長
SynFiny Advisors 日本代表、パートナー
北野 美英 氏

 在日米国商工会議所のD&I委員会が外資系企業とタッグを組み、組織内に異なる背景や文化を持つ人々がより活躍するためのトレーニングと環境づくりに取り組んでいる。北野美英さんはP&Gジャパンでの海外赴任後、仕事で活躍する傍ら生産統括本部でウーマンズネットワークを立ち上げ、ワークショップを実施した。日本イーライリリーで執行役員に就任後、ウーマンズネットワークのスポンサーになる。現在、組織やオペレーション(サプライチェーン・購買)改善のコンサルティングを提供する世界的な会社SynFiny Advisorsの日本代表をしながら在日米国商工会議所のD&I委員長を務めている。D&Iの推進に向けた取り組みと女性活躍に必要な視点について伺った。

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――在日米国商工会議所で行われている女性活躍の取り組みについて教えてください。

 グローバルに活躍しようとするマネージャーを対象にしたD&Iサミットと若手マネージャーを対象としたリーダーシップシリーズ、この2つを柱にD&I活動を推進しています。

 D&Iサミットは、年に1度実施。2023年は10月5日・13日・11月28日の3日間に分け行います。1日目は「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」を知る研修とワークショップ。アンコンシャス・バイアスは、誰しも持っているもので、あること自体が悪いわけではありません。しかし、先入観によりものの見方が偏ってしまうと組織や個人に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、能力が同じでも女性より男性を評価したり、新入社員の意見が革新的であっても無視したりすれば、組織の成長を妨げてしまいます。研修では、アンコンシャス・バイアスがどのようなものなのかを学び、参加者同士の意見交換により自身のアンコンシャス・バイアスに気づき、意識して行動する重要性について考えました。

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 2日目はP&Gから講師を招き、「アライ育成研修」を行いました。「アライ」は仲間や同盟を意味する「Ally」が語源で、一般的にLGBTQへの理解・支援者を指します。日本の20〜60代のLGBTQの当事者が最も苦労や生きづらさを感じているコミュニティは職場、という調査結果もあり、多様な人材が自分らしく安心して働ける職場環境はまだまだ作られていません。研修では、性の多様性についての知識や事例を通じてインクルーシブであることの重要性を理解してもらうとともに、参加者同士のディスカッションを通じて、一人一人が「アライ」としてできることを考えます。差別的な発言に対して、注意するだけでなく、話題を変えたり、後からフォローしたり、自分らしいアライとしての行動を見つけるヒントも提供し、スキルを身に付けてもらいます。

 3日目は企業のリーダーによるパネルディスカッションを開催。各企業やリーダーがどのようにD&Iを実践しているのかを話し合うとともに、企業間の連携を強化していきます。

 リーダーシップシリーズは、毎年テーマを設けて実施しています。2023年のテーマは「インクルージョン」。商工会議所の若手マネージャーを対象にした、各企業のリーダーが経験・学び・反省をシェアして自社のインクルーシブな環境づくりを紹介し、参加者同士で意見交換するワークショップを行いました。

――そうした取り組みを行うようになったきっかけは何ですか?

 首都圏ではD&Iが比較的進んでおり、関西でも働く女性たちがより活躍しやすい土壌を作っていくためにもっと活動しないといけないという問題意識からでした。関西に拠点を置く外資系企業が中心になって10年前から在日米国商工会議所にD&I委員会(当初は女性活躍推進委員会)を設けて活動をスタート。最初の数年間はD&Iを広く知ってもらうために「ウォーカソン」という働く女性を支援するイベントを行い、徐々にトレーニングのためのリーダーシップシリーズ、D&Iサミットへと発展していったのです。

 将来的には、研修やトレーニングをしなくても多様な人材が活躍できるインクルーシブな環境ができていることが理想ですが、まだまだ道半ばです。多くの人にワークショップやトレーニングを通じてD&Iを自分ごと化してほしい。コロナ禍以降、研修のリモート参加も受け付けているのですが、ディスカッションになるとフェードアウトする方も。講義を聞くだけでは自分ごと化できません。ディスカッションで自身と向き合い、何ができるかを考えてほしいと強く思います。

――女性管理職の少なさがよく指摘されますが、日本における女性活躍の課題をどう捉えていますか?

 女性管理職比率30%という政府の目標数値が出たことで各企業の取り組みが進み、数字も徐々に上がってきています。しかし、単なる数字合わせに見られる等まだ多くの課題があります。そうした壁を乗り越えるためにも、社長や役員がD&Iを自分ごと化し、女性が活躍できる素地をどのように作っていくのか、インクルーシブな環境はどのように実現できるのかを真剣に考えることが大切です。まずは自社の女性社員の声に耳を傾けていただき、女性は自身のマインドセットを変え自分の可能性を信じてほしいです。

 D&Iの取り組みは人事部門が担当するケースが多いのですが、大企業では部署が違えば、会社が違うほど風土が変わります。部署によって課題は違うので、一律で均一的な施策だけではなかなか進みません。部署ごとの課題にも取り組むことが大事だと思います。

――女性活躍を推進するうえで何が必要だと感じていますか? 外資系企業での取り組みのなかでヒントになるような事例があれば紹介してください。

 D&Iに関するトップの目標や考えを伝えることに加えて、D&Iのネットワークづくりやトレーニングが必要です。私の経験をお話しすると、P&Gジャパンで生産統括本部に在籍していた時に、女性社員のネットワークを立ち上げました。昼休みに集まって情報交換をしたり、先輩たちのプロフィールを作成してロールモデルを探しやすくしたり、上司と一緒にトレーニングをしたり。自分たちが抱える問題を明らかにし、上司や人事を巻き込むことによって組織に変化をもたらすことができました。

――これまでのキャリアから、ご自身でターニングポイントであったと思われる点を3つほどお話しください

 1つ目は4年目でヨーロッパ本社のドイツへ赴任した時です。海外勤務を希望していましたが、アメリカのキャリアスポンサーが若い時からグローバルな経験が重要と考え後押ししてくれて、はじめてのアジア人としてドイツに赴任しました。その経験から、グローバルの人と対等に働く自信が付きました。

 2つ目はグローバル本社のアメリカに赴任してロールモデルと出会った時です。女性の上司が子育てをしながら、周りの人から尊敬され、活躍している姿を目の当たりにして、自分の可能性が広がったと思いました。上司はスーパーウーマンではなく、周囲の協力を得ながら、ごく自然に子育てと仕事を両立していた。その姿をみて、私にもできるかも、と考えることができました。第一子はアメリカで生まれました。

 3つ目は転職した時です。不安はありましたが、インクルーシブに巻き込んでもらったことで今までの経験を活かすことができ、仕事がしやすかったです。

――これまでのご経験を踏まえて、ご自身が大事にしていることを教えてください。

 ペイフォワードです。今まで職業人生を歩むことができたのは、家族、支援者や指導者に恵まれていたからであり、私一人の力ではありません。自分が受けたものを後に続く人に繋いでいくことが自分の役割と考え、D&Iをライフワークとして多くの人のメンターやコーチになって、それぞれが活躍できるように背中を押しています。大事にしている言葉はStay curious and make a difference.

――D&I推進担当者と働く女性へメッセージをお願いします。

 積極的に皆でD&Iについて学び、自分ごととして関わっていけば働く環境は変わります。D&I推進担当者には、どんどん活動を広げてトレーニングやネットワークづくりを推進していってほしい。D&Iはみんなのものですから、みんなで取り組んでいきましょう。