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Kansai D&I News
2024.1.17 オピニオン

関西の女性活躍推進の現状~関西女性活躍マップ(令和5年度版)より~
――追手門学院大学 経済学部 准教授 長町 理恵子 氏

追手門学院大学 経済学部 准教授 長町 理恵子 氏

追手門学院大学 経済学部 准教授
長町 理恵子 氏

 皆さんの周りでは、女性活躍が進んでいる実感がありますか。

 近年、「女性活躍」は、政策課題としても優先順位が高まっています。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の1つに「ジェンダー平等の実現」が掲げられ、国内では「女性活躍推進法」(2016年施行)などによって、関西でも女性活躍への気運が高まり、企業の取り組みも進んでいます。女性活躍の推進は、女性だけではなく高齢者、障がい者などを含む全ての人々にとって、共に働き生活しやすい環境づくりにつながることが認識され、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I) の推進力になっています。さらなる女性活躍推進には、地域特性に応じた具体的な取り組みが必要になります。都道府県の特性を「見える化」した「関西女性活躍マップ(令和5年度版)」から、関西の女性活躍推進について考えていきます。

  1. 関西の経済規模が縮小?
  2. 関西の大学進学率は高く、就業率は低い?
  3. 「関西女性活躍マップ」で地域特性を可視化
  4. 今後の関西の女性活躍推進

1.関西の経済規模が縮小?

 関西といえば、伝統があり観光資源が豊かで、大学や文化的な施設が多く、高度経済成長期から続く大企業があり、経済的に豊かな地域というイメージがあると思います。まずは関西経済の現状をみていきましょう。

 日本の全人口に占める2020年の関西(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の2府4県)の人口割合は16.3%です。少子高齢化が進展する中でも、1970年から関西の人口のシェアはあまり変化していません。一方、日本全体に占める関西経済のシェアは縮小しています。関西の域内総生産(域内で生産されたモノやサービスの付加価値の合計額)は、2020年度は85.7兆円で、日本の国内総生産(GDP、名目)558.8兆円の約15.3%を占めます(内閣府「県民経済計算」)。関西経済のシェアは1970年の約20%から約5%ポイント縮小しています。

 これを1人当たり県民所得(=県民所得(各都道府県の雇用者報酬、財産所得、企業所得の合計)÷県の総人口)でみると、関西は282.8万円と、全国平均の312.3万円を下回っています。ちなみに、首位の東京の1人当たり県(都、府)民所得は521万円、第2位の愛知は343万円に対し、大阪は283万円で第22位です。1990年当時は、東京に続き大阪は第2位で、所得水準も今より相対的に高かったのです。関西経済の低迷は、経済データからある程度認めざるを得ません。

2.関西の大学進学率は高く、就業率は低い?

 大阪や京都をはじめ関西には多くの大学が集積しています。2022年の大学等進学率(短大等含む)は、男性は京都が全国第1位(69.7%) 、女性は京都が第2位(73.0%) と、男女とも上位10位以内に京都、大阪、兵庫、奈良の4府県がランクインする高水準です(文部科学省「学校基本調査」)。つまり、関西には高度な知識をもつ人的資本の価値が高い男女が多く、これは関西経済にとって明るい材料です。

 大学等進学率とは逆に、関西の労働力率は全国より低い傾向があります。総務省「国勢調査」によると、関西の女性の労働力率は近年上昇していますが、2020年に全国平均(53.5%) を超えているのは滋賀だけで、下位10位に兵庫、和歌山、奈良が入っています。高い教育を受けた人材が豊富であるにもかかわらず、関西はその人材を活かしきれていないともいえるのです。

3.「関西女性活躍マップ」で地域特性を可視化

 関西では、2017年に関西経済連合会と関西広域連合(関西2府4県、鳥取、徳島、政令指定都市(大阪、神戸、京都、堺))による「関西女性活躍推進フォーラム」が発足し、関西の企業と自治体が一丸となって女性活躍推進に取り組んでいます。同じ関西でも、府県によって女性の就業状況は異なり、それを「見える化」するために、2020年2月から同フォーラムが、「関西女性活躍マップ」(筆者もワーキングメンバーとして参加)を公表しています。

 「「関西女性活躍マップ」には、「仕事編」と「家庭・地域社会編」があり、都道府県の現状を可視化しています。「仕事編」では、働いている女性の割合(総数および既婚者の労働力率)、正規雇用比率、管理職比率、給与水準の5つの指標について、全国平均と比べた各都道府県の水準と男女格差を散布図に示しています(詳細は図表1(注)を参照)。「家庭・地域社会編」では、家庭での家事・育児、地域社会での活動も生活時間から多面的に示しています。労働や生活について客観的なデータによる現状把握が、具体的な課題解決につながります。

 図表1が、関西女性活躍マップ「仕事編」です。先述した5つの指標について、横軸の「女性仕事活躍指数」は女性の値の水準を、縦軸の「男女均等指数」は男女差をみたものです。図表1の右上(第一象限)が、全国平均より女性の仕事面での活躍度合いが大きく、かつ男女の均等度が高い(男女格差が小さい)ことを示しており、関西広域連合域内の関西2府6県のうち、徳島と鳥取が該当します。他の京都を除く1府4県は、「女性仕事活躍指数」が全国平均より低く、男女格差が大きい(左下の第三象限)ことがわかります。関西の女性は、仕事の場であまり活躍していないようにみえますが、実はそうとも言い切れないのです。

図表1 関西女性活躍マップ「仕事編」(令和5年度版) 図表1
(注)「①-1_15歳以上の労働力率(総数)」「①-2_15歳以上の労働力率(既婚者)」「②正規雇用比率」「③管理的職業従事者比」「④決まって支給する現金給与額」の各指標について、全国平均を50とする指数に変換し、「女性仕事活躍指数」はその指数の平均値。「男女均等指数」は①~④の男女差(男女比)の指数の平均値。
(資料) 関西女性活躍推進フォーラム「関西女性活躍マップ(令和5年度更新版)」より筆者作成

 令和元年度版の「関西女性活躍マップ」と比べると、指数の構成指標である労働力率など多くの値が上昇し、全体として関西の女性活躍は進んでいます。しかし日本全体における水準は高くはなく関西の課題が見えてきます。図表2で、「女性仕事活躍指数」を構成する各指標をみると、女性の労働力率が全国平均より高いのは滋賀、鳥取、徳島(既婚者のみ)であり、鳥取、徳島は正規雇用比率が高いことがわかります。つまり、京都、大阪、兵庫、奈良は働く女性割合が低い上に正規雇用が少ないのです。一方、この4府県で働いている女性は、管理的職業従事者比と現金給与額は全国より高いことから、ある程度キャリアアップして比較的好条件で働ける環境にあるといえます。

図表2「仕事編」:全国平均との比較(令和5年度版) 図表2
(注) 〇印は、全国平均より高いもの。
(資料) 関西女性活躍推進フォーラム「関西女性活躍マップ(令和5年度更新版)」より筆者作成

 ここに図の掲載はないですが、「家庭・地域社会編」もみると、女性の就業と家庭での活動は無関係ではないことに気づきます。「家庭・地域社会編」を構成する生活時間をみると、関西の女性の家事時間は京都、大阪、滋賀、奈良、和歌山で全国平均(1日あたり210分)よりも長く、特に奈良は246分と全国第1位です(総務省「社会生活基本調査(令和3年)」)。ちなみに、男性の家事時間は、1日当たり27分で男女格差は歴然としています。「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分担意識が根強いことも考えられます。近年、家事時間は、女性は減少、男性は増加の傾向があるものの、依然として無償労働が女性に偏っており、女性活躍推進には、この大きな男女格差を縮小することも必要です。

4.今後の関西の女性活躍推進

 「関西女性活躍マップ」からわかる関西の女性の就業の特徴は、労働力率は全国に比べて低水準ですが、大阪や兵庫など都市部の労働条件は比較的良いこと、関西では高い教育歴がありながら働いていない層が一定数存在していることがうかがえます。一方で、女性は家庭内での役割をしっかり担っている様子もみえてきました。

 経済成長の視点から女性活躍推進を考えてみると、現在働いていない女性が社会で働くことは、有償労働によって生産されるモノやサービスの付加価値が増加し、経済の活性化につながります。家庭内で行われる家事・育児・介護などの無償労働は、市場での経済取引が発生しません。一方、専業主婦が働こうとすると、保育園の利用など家事・育児・介護の一部に外部サービスの利用が増え、時短家電など新たな商品・サービスの創出、消費といった経済活動につながります。つまり、潜在的な関西の女性の労働力が市場に投入されると、生産による経済規模の拡大、消費の増加によって経済成長の押し上げが期待できるのです。

 以上から、一言で「女性活躍」といっても、地域によって多様であり、例えば「労働力率の向上」と「女性管理職比率の上昇」を実現するためには、異なる政策や取り組みが必要です。京都、大阪、兵庫、奈良などの都市部は、働く女性の総数を増やすために家事・育児の支援が有効であり、労働力率が高い滋賀では、管理職や正規雇用の比率を高める女性のキャリア支援が必要です。働くか働かないかは個人の自由ですが、働きたい人が働きやすい環境づくりは求められ、「関西女性活躍マップ」から、他府県での成功事例を参考にして、具体的な政策立案や施策につなげることもできます。

 「女性の働きやすい社会」は、男性も含めた全ての人にとって働きやすい社会であることは自明であり、女性活躍推進はダイバーシティ経営の視点でも先送りできないテーマです。全自動洗濯機や食洗機などが一般的となり、今後10年間に家事時間の40%が自動化されるという研究もあります(Nagase他,2023) 。近年は女性の労働力率が高い地域ほど、出生率が高い傾向もあります。イノベーションやAI技術を活用し、社会、企業、家庭の全てにおいて多様な選択肢を提示することや関西の地域特性に応じた独自の施策が、潜在的な女性の労働力が眠る関西の活性化につながります。