島津製作所 常務執行役員
人事・ダイバーシティ経営・健康経営担当
梶谷 良野 氏
2015年に女性活躍推進プロジェクトを立ち上げ、女性の活躍推進を柱に、一人ひとりが生き生きと働くことができる環境づくりに取り組んでいる島津製作所。22年からDE&I推進の専任組織を設置し、経営戦略の一環の位置づけを強化、国内外のグループ会社を含めたグローバルな取り組みを行っている。常務執行役員の梶谷良野さんに、科学技術系メーカーにおける女性活躍推進の取り組みと課題について伺った。
――島津製作所がDE&Iに取り組んだ背景についてお聞かせください。
当社が経営戦略として掲げる「世界のパートナーとともに社会課題を解決するイノベーティブカンパニーへ」。これを実現するには、新たなチャレンジが不可欠であり、いろんなアイデアを出すために多様な人材を活用していくことが重要です。一般的に日本企業は同質性が高く、偏った見方や判断をしやすい傾向があると言われます。同質性の高い集団からは、イノベーティブな発想は生まれにくい。そうした課題に対応するため、女性をはじめ多様な人たちが活躍できる環境づくりが必要と考え、2015年に女性活躍推進プロジェクトを立ち上げました。もともと離職率が年1%前後で女性も定年退職まで働くのが当たり前でしたが、当時はまだ女性管理職比率は1.5%とかなり低い状況でした。
――女性活躍やDE&Iの推進に向けた具体的な取り組み内容とその成果を教えてください。
DE&I推進、特に女性活躍で重要と考えているのが無意識のジェンダーバイアスに気づき、一人ひとりがキャリアや働き方について考えること。全管理職にアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)研修を行い、講習会、Eラーニング、認知バイアスの共有などのプログラムを通じて誰もが違いを認め合うことのできる職場づくりに努めています。研修によってほとんどの管理職が認知バイアスのあることに気づいたという結果が出ており、まずは、自身のアンコンシャスバイアスを認識し、向き合い方を学ぶことが重要です。 女性管理職の育成プログラムとしては、若手の管理職候補に向けた女性リーダーシップ研修を実施したり、キャリアを築いてきた女性のロールモデルや役員の話を事例として提供しています。
また、「褒める文化の醸成」をダイバーシティの1つのテーマにし、一人ひとりの能力を最大限発揮してもらう職場づくりを行っています。私もそうでしたが、女性は自信が持てないが故に、意思決定力が弱くなってしまう人が多いように思います。チャンスを与え、成功体験を積ませること、適切なフィードバックを行うことで自信を持って仕事に取り組むことができると考えています。人事制度や評価制度の改革も併せて進め、2023年に本社の女性管理職比率が5.1%になりました。
加えて、グローバルなDE&I推進に向けた取り組みとして、20年からSHIMADZU DE&I WEEKを実施。英語での基調講演や管理職のトークセッション、川柳やアート表現を通じて、国内外の社員がDE&Iを自分事として考えるきっかけとなる取り組みを強化しています。アートは言葉の壁を越えて参加できるイベントとして企画したもので、大きな反響がありました。
――そうした取り組みを進める中での気づきや課題があればお話しください。
管理職に限らず、若い人も含め一人ひとり自分らしく活躍できる組織となるためには、やはり女性が活躍できる環境づくりは重要な取り組みの一つであると考えています。島津製作所は1948年から産休を導入するなど、働きやすさや就業継続を目指して制度拡充を進めてきた歴史があります。最近はキャリアを分断したくないという考えから、育休を長く取るよりも早く職場に戻って働きたいという人も増えています。そのために時代に合わせた両立制度を整備してきました。
ただ現在の育休は女性にとってフェアじゃないところがあります。女性が育休を長くとれるということは、女性が子供の世話をして、男性が働くということ。ジェンダーギャップをなくすなら、どちらが育休を取ってもよいというふうになるべきですが、現状では男性の育休は短くてほとんどがお手伝い。女性に活躍してもらうために、どんな休み方、働き方をするか、男性にどうしてもらうかを考え、攻めの女性活躍を推進していくのが我々のミッションと考えています。
女性社員の割合は2割程ですが、最近30歳代に占める女性社員が3割を超え、若手社員の意識は変ってきています。誰もがアンコンシャスバイアスを持っていますが 特にマネジメント層がバイアスに気付きDE&Iへの意識を高めてもらうことがDE&I推進には必要ですね。
――女性管理職を増やすためには、母数となる女性社員の数を増やすことが必要だと思います。女性採用比率を高めるためにどのような工夫をされていますか?
当社は社是「科学技術で社会に貢献する」を掲げており、理系人材を中心に採用しています。そもそも理系女性は全体の20%ぐらいしかなく、採用はかなり厳しいのですが、女性社員採用比率を30%以上に維持するという高い目標を立てて頑張っています。
例えば、女性技術者に向けた合同採用セミナーで工夫しているのは、良いことばかりではなく大変なところも併せて現実の仕事内容をリアルに伝えることです。また、理系女子に特化したインターンシップやセミナーも実施しています。このほか、大学と連携して次世代の理系女子を増やす取り組みも行っています。
――今後取り組んでいきたいことは?
一つは、女性に限らず、社員一人ひとりが生き生きと働くことができる環境をつくること。人事制度や評価制度の改革と合わせて多様性を活かす仕組みを整備し、意識改革とセットでの取り組みを強化していきたいと考えています。もう一つは、一人ひとりに多様性があり、それに気づき、強みとして活かすこと。個人の内側にも多様性が広がるよう取り組みを進めており、自分の専門性を活かしながら新たな分野に挑戦して自分の強みを増やすことが、成長につながります。個人の多様性を持てるよう大学と連携して学びの機会を提供していきます。
さらに、グローバル企業として多様な人材が増えるなかで、改めて島津製作所がどんな人材を求めているのかを明確にし、失敗を恐れず常に挑戦し、学び、成長できるよう、良いところを認めて褒める企業文化を浸透させていきたいと思います。