一般社団法人 Transcend-Learning
関西高度外国人材活躍地域コンソーシアム コーディネーター
吉田 圭輔 氏
慶應義塾大学理工学部を卒業後、豊田合成株式会社の開発・設計を経て、東京大学発のベンチャー企業に転職。2017年から文部科学省委託事業の外国人留学生就職促進プログラムのコーディネーターとして関西大学へ出向し、産学連携におけるプログラム開発を多数行った。現在は独立し、一般社団法人Transcend-Learning(トランセンドラーニング)のスタートアップの理事兼事務局長として、企業、銀行、経済団体および大学等と連携しながら、外国人留学生の支援の事業を行っている。この度、関西経済連合会が事務局を務める関西高度外国人材活躍地域コンソーシアムのコーディネーターに就任。
1.「D&Iに関するアンケート調査結果」から受けた印象
はじめに、図1関西経済連合会が行った「D&Iに関するアンケート調査結果」から、印象に残った部分を述べたいと思います。図1左側の外国人従業員の採用計画では、「以前より必要に応じ随時採用をおこなっている」が42.1%で最多。「以前より採用はおこなっておらず、今後も採用の計画はない(29.2%)」が続いています。特に、後者は非常に興味深い数字でした。
現在、世界では年間どれくらいの学生が外国で学んでいると思いますか?グローバル人材とされる外国人留学生は、2020年で560万人と言われており、((出所)The Power of International Education ”Project Atlas”, Global Mobility Trends(2020)から引用)各国では人材の取り合いが行われています。大学等の教育機関への留学、現地での就職、いずれもそれぞれの国でより盛んに支援が行われています。理由は簡単で、労働者不足からです。
次に、日本の人口について調べてみました。日本の出生数は、2016年に初めて100万人割れとなりました。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2017年に示した将来推計では、日本人の出生数が77万人台になるのは2033年と予測されていましたが、2022年に生まれた出生数は79万9728人(厚生労働省の人口動態統計より引用)でした。2022年に生まれた世代は18年後、仮に大学進学者数は大学進学率を60%(2022年度大学進学率:56.6% 文部科学省 学校基本調査)として計算すると、約48万人です。大学進学者数は2022年で68万人ですから、約20万人の減少が容易に計算できます。さらに厄介な問題もあります。関西地域の大学卒業後の学生定着率です。関西のある都市では、卒業後、その地域での定着率が17%という都市もあり、驚きの数字です。
このような状況の中で、企業に求められているハイクラス人材をいかに獲得し続けていくのでしょうか?少ない母集団から、関西の企業で取り合うことになります。その前に、日本で働いてくれるのでしょうか?
今回のアンケート結果にある「以前より採用はおこなっておらず、今後も採用の計画はない(29.2%)」は私にとって印象的でした。図1右側の外国人従業員を採用する計画がない主な理由も、印象的な結果でした。「外国人を採用する職種・業種がない(27.9%)」という点です。
これに関するお話として、関西高度外国人材活躍地域コンソーシアムの取り組みについてご説明します。コンソーシアムは、関西経済連合会が事務局となり、近畿経済産業局、大阪府、京都府、兵庫県といった自治体、大阪出入国在留管理局、日本貿易振興機構(ジェトロ)等が参画しています。2023年度は、2月22日にキックオフイベント、その後、外国人留学生採用にむけた3STEPの企業啓発セミナーを実施しました。1st STEPは、11月22日に大阪府、2ndSTEPは2024年1月に兵庫県、3rdSTEPは2月に京都府にて開催しました。
1stSTEPセミナー(於:関西大学 梅田キャンパス)では、企業向けセミナーにオンライン視聴を含め73名、続いて実施された留学生セミナーに42名が参加しました。ワークディスカッションでは、外国人留学生の採用に関心はあるが、その一歩が踏み出せない企業を対象に「外国人を採用する職種・業種がない」という理由が多いのはなぜかについて考えるため、「外国人留学生の魅力とは?」をテーマに意見交換を実施しました。(図2参照)
ワークディスカッション後、企業参加者に対して行ったアンケートでの外国人雇用におけるメリットについての結果を図3にまとめています。よく言われる外国人雇用の利点=グローバル化に対応できる点は、全体のたった13%でした。つまり、ワークディスカッションを通して、それ以外の部分に関西の企業が多くの気づきを得ていたことが分かります。
特に①新しい視点から新しいアイデアが生まれる、②社内(社員・風土)の活性化につながるという2点が挙げられました。
さらに、下記意見も頂戴しました。
- 実際に留学生の方と話ができ、リアルな内容を聞かせていただいたことがよかった。
- 留学生の方々がとても優秀で将来性のある方々でした
- 想像以上に留学生の方が多数参加されており、活気を感じました。
現在の就活プロセスは、なぜ日本で働くか?キーワードはSX
日本の高校や大学の教育事業に携わっている私が感じているのは、今の10代~20代世代のキャリア選択軸として「サステナビリティ」というキーワードが入っているという点です。以下に具体的な例を挙げていきます。
まず、外国人留学生と話していると、母国の経済発展に伴う環境汚染・文化破壊や、経済格差からくる社会秩序の乱れ等を実際に経験している学生の多さに驚きます。外国人留学生が書いたエントリーシートからも、ダイバーシティの根源にある、国・地域を超えたサステナビリティへの関心が存在しているのは確かです。例えば、以下の2つです。
「今年の夏休みに2年半ぶりに帰国してきた。そしてベトナムで見たゴミの量があまりにも酷かったので、自分には何かできるかずっと考えていた。ベトナムの環境問題の解決に少しでも貢献できればと思う。」
「将来日本と協力し、インドネシアの環境と農業問題を解決する仕事をしたいと思っています。日本企業と一緒にインドネシアの環境課題解決を考えることができます。」
日本でも教育課程で「総合的な学習(探究)の時間」がスタートしています。変化の激しい社会の中でよりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしています。この思考によって、就職活動の軸が企業における社会的役割を重視したいということに変わってきています。そして、日本社会をより広く、深く探究しているこれらの世代が、これから社会にどんどん輩出されてきます。つまり、これからの就職活動においては、「パーパス=サステナビリティ」を重視する世代が、それを踏まえてキャリアを選択する傾向にあるのです。
図4をご覧ください。今までの外国人留学生と企業とのマッチングでは、上段のような「就活経路」があります。しかしながら、これは「日本の企業が選ばれること」が前提となったプロセスです。このプロセスでは、なぜ日本で働くのか?という部分が抜けたままでその場しのぎの対応になります。
特に外国人材と企業との間では、完全に形骸化しつつあります。例えば、日本の就労ビザが欲しくて内定だけを取る外国人材は多数おり、いわゆるビザ目的入社です。これは、企業に定着しないことを前提としている就職活動であり、企業にとっては全く意味のない就職マッチングになっています。
現在の留学生向けには、図4下段のようなストーリーが良いのではないかと考えています。例えば、留学生就職支援コンソーシアムSUCCESS-Osaka*では、国内の外国人留学生をターゲットとしたSX事業に対する長期プロジェクトを長期インターンシップとして実行しました。(参考:2019年7月19日 日本経済新聞 朝刊「大学にも工夫の余地 企業との仲介 関大では効果」)インターンシップは学生の面倒を見るものではなく、企業も利益を獲得しに行くプロジェクトであることがポイントです。学生自身が座学と実践を通じ、日本で就職をすると言う明確な理由を育てていくことです。
*2017年から2021年の5年間に、文部科学省の受託事業として留学生就職促進プログラムが全国12カ所で実施された。関西は関西大学が幹事校となり、大阪大学・大阪公立大学が参加している。この事業は、日本の成長につながる優秀な外国人留学生の受入れを増加させるため、国公私立大学、業界団体、企業及び留学生支援団体等が緊密に連携し、外国人留学生に対する国内企業への就職支援を図るプロジェクトである。
図5では、外国人留学生が日本企業で就職活動を行った際、内定を取るまで諦めずに取り組めた理由をグラフで示しています。プロジェクト前は、日本文化が好きだからという、いわゆる親日家が圧倒的1位でした。しかし今では、日本企業に参加する明確な理由が1位になっています。また副次効果も出てきており、プロジェクト実施以降の外国人就職率は、プロジェクト前から20%以上も跳ね上がりました。
最後になりますが、関西企業の社長から、こんな言葉をよく聞きます。「多様性(外国人)は儲かるんか?」この回答は、上記に述べたことだけでなく、今回、私もコーディネーターとして参加し取り組ませて頂く関西コンソーシアムにおいて、「高度人材としての外国人雇用と多様性」を産学官で広く伝えていき、選ばれる関西企業の好事例を次々に生み出していきたいと思います。ぜひご期待ください。