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Kansai D&I News
2024.3.13 オピニオン

働き方改革の進め方
――三菱UFJリサーチ&コンサルティング 矢島 洋子 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 執行役員 主席研究員 矢島 洋子 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング
執行役員 主席研究員

矢島 洋子 氏

1.女性活躍と働き方改革

 セミナーや研修でワークショップを実施させていただくと、企業の人事担当者や経営層の方の中では、未だに、女性活躍推進の課題は「女性の消極性」であり、必要な取組みは「女性の管理職への積極登用」や「積極採用」だと認識している方が少なくないようです。しかし、これまでもお伝えしてきたように、女性活躍推進において、真に重要なことは、ライフイベントに即して「柔軟な働き方」を選択できることと、そうした働き方を選択した場合も「公正に評価」され、「キャリアの展望」が描けることです。加えて、「アンコンシャス・バイアス」に基づかない、「配置」や「業務配分」が行われることも重要です。逆に言えば、これらができていたならば、特別に、女性のみを対象とした「積極採用」「積極登用」といったポジティブ・アクションを実施する必要は無くなってくるはずなのです。

 このことは、当事者である子育て中の女性社員には、実感されているようです。図1にあるように、「女性管理職が増えるために効果的な取組み」として、「短時間勤務や在宅勤務が利用しやすく」、「労働時間の長さではなく、仕事の成果をきちんと評価すること」が、上位3回答となっています。「性別に関係なく」「やりがいのある仕事が与えられる」、「配属が行われる」ことも上位に入っています。つまり、アンコンシャス・バイアスに基づかない、配置や業務配分です。そして、女性だけでなく「男性も」、「長時間労働の削減や休暇取得促進に取り組む」ことや「育児休業取得を進める」ことも上位に上げられています。残念ながら、人事担当者に同じような調査をしても、このような結果にはなりません。今、調査を行っても、おそらく上位には相変わらず「女性の意識の問題」が入ると予想されます。

図1 子育て中の女性正社員が考える「女性管理職が増えるために効果的な取組み」
図表1

注:「その他」を除く25の選択肢のうち上位10項目をグラフ化している。
出所:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「出産時就業継続した正社員女性に関する調査」2016年

 男女ともに、長時間労働ではなく、柔軟な働き方で公正に評価され、キャリア形成を図ることのできる組織を作る。このことが、これまで画一的な働き方で単線型のキャリアモデルしか持たなかった日本の企業組織では相当難しいために、従来の働き方や組織のあり方はそのままに、女性のみ特別枠で配慮をして済まそうとしてきたのがこれまでの「女性活躍」であり、もはやそれでは、先に進めないということも多くの企業が気づき始めています。

 2023年10月号掲載のオピニオンでは、柔軟な働き方の代表例としての「短時間勤務」の運用方策についてご紹介しました。今回は、すべての社員の「働き方改革の進め方」についてご紹介します。

2.効果の期待できる働き方改革とは

 多くの企業で、すでに「働き方改革」なるものは、何年も取り組まれていることでしょう。しかし、ダイバーシティやWLBにつながる成果が得られず、ノー残業デーは形骸化し、テレワークなど柔軟な働き方のマネジメントがうまくいかず、管理職にしわ寄せが出るなど、うまく進んでいない企業が少なくないようです。そして、「働き方改革のせいで良い仕事ができなくなった」「若者がやりがいを失っている」など、風評も流布されています。これらは、働き方改革が正しい方向・方法で進められていないために起こっていることです。

 正しい働き方改革を進める上でのポイントで、まず大事なのは、全社員が共有できる「目的」を明確に示すことです。働き方改革には時間がかかります。全社員が長期的にコミットすることが必要です。違法にならない水準まで残業削減や有休取得を進める、育児や介護との両立をはかる社員を支援するといった目的だけでは長続きしません。大事なのは、「すべての社員が多様な働き方でWLBをはかりながら活躍できる組織」を目指して取り組むことです。そのためには、その職場固有の「非効率な働き方につながる文化」を変えるところまでいかないと、いったん減った残業時間も何かのきっかけですぐに戻ってしまいます。各組織のミッションや社員構成(時間制約のある社員の割合など)の変化等に合わせて、職場内で話し合い、その都度働き方を見直すことのできる、つまり「自ら変わり続けられる組織」になることを目指す必要があります。

3.「働き方改革」の対象

 こうした目的を掲げて進む働き方改革は、多くの企業が従来取り組んできた働き方改革と、何が違ってくるのでしょうか。具体的には、「対象」となる社員と、「対象」となる働き方、「働き方改革の進め方」が異なります。

 まずは、「すべての社員」を対象に取り組んでいるか否かです。時間外労働の罰則付き上限規制の対象となっている一般社員のみを対象として、管理職の働き方改革を進めない企業が少なくありません。こうしたアプローチの問題は、若手社員の残業を減らすために、管理職が以前よりも長時間労働になっているとか、マネジメントや部下育成に時間がさけない、ということはもちろんですが、それだけではありません。管理職が、若手の仕事を自身で抱え込むだけで、今までの業務の進め方や業務削減に取り組まない、ということが最も大きな問題です。また、管理職が忙しすぎる状況は、女性に限らず、若手男性も管理職を目指さなくなる、という問題に拍車をかけます。

 次に、対象となる働き方として「長時間労働の削減」と「柔軟な働き方の導入」に同時に取り組んでいるか否かです。残業削減や有給取得推進のために、画一的な働き方で管理を強化する方向に進んでいる企業があります。そうした企業では、コロナ禍によりテレワークが必要となっても、その準備ができていなかったはずです。その反省があるにも関わらず、今またテレワークを止め、画一的な働き方・管理に戻そうとしています。テレワークと職場のどちらが生産性が高いかを議論することに意味はなく、どちらの環境も整えて、効率良い仕事とWLBのために、社員がうまく組み合わせて使えるようにするハイブリッドな働き方が生産性を高めるのです。

4.4つのフェイズで進める働き方改革

 最後に「働き方改革の進め方」です。私は、働き方改革を進める方法をご紹介する際、図2の「働き方改革の4フェイズ」をお示ししています。多くの企業が取り組んでいる「ノー残業デー」や「有休の計画取得」の取組みは、図中に「第1フェイズ」としています。これらの取組みは、「どういう性質の取組みか」というと、基本的には、「個人に意識させる」取組みです。取組みの当初は、時間や休暇取得をまったく意識していない社員がいることで、一定の成果は出ますが、早晩、問題に突き当たります。それでも、ただこれらの取組みを継続していくと、効果が実感できないまま、形骸化していくばかりです。大事なのは、「第2フェイズ」の「組織的に意識する」取組みに移行することです。係でも課でも部でもかまいませんが、チームの中で、話し合って、早く帰る・休みを取るための協力体制を取ることが必要です。ノー残業デーに取り組む中で、当たり前のようにこうした取り組みを行う管理職の方もいます。しかし、残念ながら、多くの職場では、そうした移行が起こっていないのが現状です。地道なようですが、Outlook等による「スケジュールの共有」で、会議や外出の予定だけでなく、各自の退社予定時間や作業予定を、他者に見て理解してもらいやすいように入力して、共有することも有効です。

図2 働き方改革の4フェイズ
図表2

 次に、「第3フェイズ」の業務削減・効率化です。この取組みはすでに行っている企業も少なくないでしょう。しかし、見落とされがちなポイントがいくつかあります。ひとつは、職場のDX化やペーパレス化により職場の効率化が進んでも、会社が職場の人員を減らしてしまったり、組織目標を上げてしまっては、ダイバーシティのための働き方改革にはつながらない、ということです。「やらなければいけない仕事」の効率化・削減に取り組むことで、職場の生産性が向上したなら、余裕のできた時間の一部は必ず社員に還元してください。その時間を何に振り向けるかは各社員に選択可能としてください。育児・介護事由だけでなく、様々なWLB実現、自己啓発、自分が真に取り組みたいと思うライフワークなど、様々な時間選択が可能になれば、すべての社員が「やらなければならない仕事」の見直しに協力する動機になります。また、在宅勤務は、それ自体を目的化するのではなく、業務の効率化のために行うのだということを前提に、無駄な手続きを増やさずに進めてください。

 働き方改革の第1から第3フェイズは、全社的な合意が得られなくても、ひとつの部署から取り組むことができます。ただし、取組みを進める際、これまで職場のルールを決めていた中堅・管理職層の声だけを聴いていると、これまでの業務の進め方に効率化や削減をはかれることなど何も無い、という結論になりがちです。若手や中途採用者などの意見を聴き、ひとつでも多く、新しい取り組みにチャレンジしてください。優先すべきは、短期的に社員にメリットが感じられる取組みです。会議の効率化などはその代表例です。自分たちの意見で、メリットを感じられる職場の変化が起これば、継続的に意見を出していこうとする社員が増えます。一方、必ず「問題が起こったらどうするのだ」という声も出てきます。必要なのは、働き方改革の取組みは、まず期間を限定した「トライアル」として、新しいルールを導入してみる、ということです。半年なり数カ月なり導入し、メリットとデメリットをしっかりと検証して、メリットが上回れば、ルールとして正式に導入し、デメリットが大きければ止めればよいのです。取組みの成果を評価する際は、労働時間や休暇取得の変化だけをみるのではなく、生活がどう変化したか、マネジメントや社員の意識がどう変化したかにも着目してください。

5.経営の役割

 最後の第4フェイズは、経営として取り組んでいただきたいことです。現場としては、第4フェイズに先に取り組むべきだと思うでしょうし、経営層の方は、現場で効率化できる余地があるのならそちらを先に、と思うでしょう。できれば同時に進めることが理想ですが、実際には1から3を先に進めている企業が多いのが現状でしょう。経営資源の選択と集中・最適化、というのは、かなり使い古された言葉ですが、私は「法順守が可能な業態、良く働いた人が報われる制度に」していただく、ということだと考えます。特に、人事評価の見直しは必須です。未だに、「できる人に仕事が集まるんだよね」と言って、生産性の高い社員に長時間労働をさせて、組織目標の達成を頼り、短期的には評価も給与も見合わないまま働かせる状態を放置する企業では、人財の獲得も育成もできなくなるのは時間の問題です。「できる人に仕事が集まる」で長時間働いてきた社員がその組織に留まっていたのは、今は報われなくても将来報われるだろうという期待ができていたからです。今は、そうした期待をすることが大きなリスクであることを若い人達は知っています。今仕事ができて長時間働ける一部の社員に頼るだけでなく、すべての社員の仕事を「時間当たりの成果」で評価し、組織目標を達成するための効率的な業務配分を、各社員の育成の視点も含めて行うことが大事です。そうすることで、多くの社員が、評価・処遇への納得感とこの組織での成長実感やキャリアの展望を得られるようになることを目指してください。

 もし、このコラムの中に、これまで取り組んでいなかった施策や考え方があれば、ぜひ取り入れてみてください。女性活躍を含むダイバーシティ推進においては、こうした働き方改革で成果を出すことを避けては通れないのです。