出産・育児をキャリアブレーキにしない、
ダイキン流キャリアを重ねられる職場づくり
ダイキン工業株式会社
「人を基軸におく経営」を原点に、早くからダイバーシティ・マネジメントに取り組むダイキン工業。7年連続で「なでしこ銘柄」に選定されている女性活躍推進の取り組みを中心に、ダイバーシティ推進施策とその成果、課題などについて、人事本部ダイバーシティ推進グループの井﨑千尋さんに話を聞いた。
ダイキン工業
人事本部ダイバーシティ推進グループ
井﨑 千尋 氏
――ダイバーシティ推進の背景やきっかけとなった出来事があればお聞かせください。
当社のダイバーシティの原点は「人を基軸におく経営」。企業発展の原動力は「人」であり、イノベーションを起こすためには従業員一人ひとりが強みを持ち、多様な強みを組織として融合していくことが必要不可欠という考え方です。そのために、1991年からシニアをはじめ、障がい者、外国人、女性の活躍推進に取り組んできました。
その中で一番遅れていたのが女性活躍の領域です。2011年1月の新年挨拶で井上礼之会長が「本気で女性活躍に取り組む」と宣言し、会長直下のプロジェクトを発足して本格的な取り組みが始まりました。当時の女性社員の比率は12.6%、女性管理職は20人(2.6%)。当社はもともと業務用空調機器の製造・販売を中心に発展してきたメーカーで、女性社員の比率が低く、人事本部だけの取り組みではなかなか前に進みません。トップのコミットメントが会社全体の意識改革に向けた大きなきっかけになりました。
――ダイキン工業さまにおける女性活躍の現状をどうとらえていますか。
2023年12月現在、女性社員の比率は18.5%、女性管理職が106人(8.2%)と、製造業の平均を少し上回るまでになりました。女性社員のうち39%、女性管理職の56%が子どもをもっていて、仕事と育児の両立が当たり前の文化が根づいています。
当社の女性活躍推進の取り組み方針は、「男女ともに修羅場を与えて育てる」、「育った人材を男女公平な目で見て管理職・役員に登用する」、「出産・育児のキャリアブランクを最小限にするために最大限の支援をし、性別に関わらず仕事と家庭を両立できる風土醸成する」の3つ。この方針に基づいて、あらゆる取り組みを進めています。
――女性管理職を増やしていくために、特に注力されている取り組みを教えてください。
女性管理職候補の育成の加速と、出産・育児をキャリアブレーキにしないための就業継続支援に力点を置いています。世の中では長期間の育休取得や時短勤務などを前提とした子育て支援策をとる企業が多い中で、少し厳しい考え方だと思われるかもしれません。しかし、働き続けることが能力の維持向上につながると考え、キャリアブランクをできるだけ短くして、仕事と育児を両立しながらキャリアアップしていける、そういう支援を目指しています。
こうした考えのもと、育休から早く復帰したいという意志がある人を最大限にサポートする仕組みを整えており、特に子どもが生後6カ月未満で復帰される方には足し算の支援をしています。例えば、育休から復帰し、働き始めるにあたってソフトランディングできるよう復帰後1カ月は4時間の短時間勤務や週4回の在宅勤務を可能としています。また「育児支援カフェテリアプラン制度」においては、追加補助を実施しています。「育児支援カフェテリアプラン」とは残業や出張、子どもの病気など突発的な事情でベビーシッターなど外部サービスの利用が必要になった時、年間20万円まで費用を補助する制度ですが、生後6カ月未満で早期復帰する社員はその上限を最大60万円(生後11カ月未満の復帰者は最大30万円)としています。その他にも、全員を対象に子どもを保育所に入れるための保活&育休サポートセミナーや保活コンシェルジュサービスも実施しています。
2011年度の女性活躍推進プロジェクトを開始した当初は、6カ月未満で復帰する人はゼロでしたが2022年度には12人(育休取得者全体の15.4%)、1年未満で復帰した人も9人から23人と徐々に増えています。また、共働きが普通になってきていることから、出産後女性がまず6ヵ月休み、その後男性が6カ月休むというような育休の取得の仕方も出てきました。周りに早期復帰した人が増えてくると、私も早期復帰してみようと思う人が増え、風土が変わりつつあります。
――取り組みを進めるうえでの難しさや課題を感じた点、その解決方法をお聞かせください。
女性自身と上司のアンコンシャスバイアスが強く、両方が掛け合わさっていることが大きな課題です。女性自身がもつバイアスのひとつは、女性が育児をメインで担わなければいけないという思い込みがあること。男性の育児参画が増えて状況は変わってきていますが、この考え方には根深いものがあります。一方、男性上司には、結婚したばかりの女性に海外出向させるのは忍びないと打診をしない、子育てが大変だからと軽めの仕事を渡すなど、“優しさの勘違い”がいまだに残っており、無意識のバイアスに気づいていないことが問題です。
そうしたアンコンシャスバイアスに気づいてもらうきっかけとして、育児休暇から復帰した女性社員とパートナー、それぞれの上司の4者を対象にした「仕事と育児両立セミナー」を実施しています。復帰者とパートナーに仕事と育児を両立するコツを伝えるとともに、長期的なキャリアプランを考える機会を提供しています。一方で、いくら当事者のマインドセットが変わっても、今置かれている職場の環境が変わらなければ、どうにもならないこともあります。そこで復帰者とパートナーそれぞれの上司も加えて、復帰者や上司のロールモデルの話を聞き、マネジメントを見直す機会を作っています。
また、男性育休取得推進も根深いバイアスを払拭するアプロ―チの一つだと思っています。当社では、子どもが生まれた男性とその上司に「仕事と育児両立ハンドブック」を送付し、上司部下間でいつ育休をとるか対話して、具体的に日程まで決めてもらうようにアプローチしています。このように性別関係なく、男女ともにお互いのキャリアを大切にしながら、仕事も子育ても両立できる環境づくりが大切だと思っています。
――今後、取り組んでいきたいことは?
女性活躍に関して考えられる施策は実行し、効果があったものを続けることで少しずつ成果が現れてきました。風土醸成や意識改革に即効薬はなく、トライ&エラーで継続することが大事だと思っています。
喫緊の課題は女性の課長にとどまらず、部長以上の役員幹部候補を早期に育成して増やしていくこと。2011年から研修をはじめとしたさまざまな施策を実施し、ようやく候補者が群として育ってきました。近年は管理職への登用が進んでおり、この勢いを止めずに進めていきます。また、海外のグループ会社でも女性活躍の課題があり、各拠点で様々な取り組みが行われていると聞いています。今後は、ダイキンのグローバルグループ全体で協力して、ダイバーシティに取り組んでいきたいと思います。
制度利用者の声
~仕事と育児どちらも大切に。工夫し、チャレンジし、成長を続けたい~
ダイキン工業
テクノロジー・イノベーションセンター 担当課長
横島 路子 氏
入社13年目に7カ月間の育休を取得、職場復帰後半年で課長に昇進した横島路子さん。現在は、テクノロジー・イノベーションセンター管理グループの担当課長として、研究開発部門の法務コンプライアンスを担う。仕事と育児に邁進する横島さんに両立の課題と工夫について聞いた。
――育休を取得し、7カ月で復帰することへの不安はなかったのでしょうか?
育休を取得した時期は、入社13年目で同期のなかには課長に昇進する人も出てきていました。キャリアへの不安が全くなかったとは言えませんが、元々、自身の人生や家族の将来を考えて子どもが欲しいと思っていた中、幸いにも授かることができましたので、育休を取得しました。
仕事と育児の両立については、2014年から2016年に中国へ研修に行った際の経験が大きな後押しになりました。中国では生後4カ月での復帰が法律で決まっており、女性の社会進出も進んでいる。4カ月で復帰し仕事をする同僚に衝撃を受けると同時に、自分にもできるのではとポジティブに受け止めることができました。長い人生を考えた時、なるべく早く復帰し、仕事と育児の両立に慣れていきたいと考え、早期復帰を決めました。
――職場に復帰するうえでの課題、その解決に向けての工夫は?
子どもを預ける保育所がなかなか見つからなかったことです。6カ月未満の早期復帰を考えていたのですが、そもそも6カ月未満の乳児を預かる保育所は多くなく、受入枠も非常に限定的でした。6カ月以降は枠が増えますが、年度の半ばには殆ど空きがありません。幸いにも、6カ月目で認可外の保育所に預けることができました。保活を行うにあたって「保活コンシェルジュサービス」も活用しました。保活コンシェルジュは、居住地、勤務地近くの保育所情報を提供してくれるほか、問い合わせ時のヒアリングシートや情報収集のポイントをまとめた資料を頂き、大変助かりました。電話でのカウンセリングもあり、保活の精神的負担も軽減されました。
保育所に預け始める際の慣らし保育にも思っていたより時間がかかりました。社内結婚した夫がそのタイミングで育休を取り、二人で対応しました。その後も、私が仕事の時は夫に子どもを任せることができ、保育所への送りは夫が担当、お迎えについては夫が数カ月先までシフト表を作成し、夫婦で分担しています。やはり、夫婦分担で育児を行うことが重要であり、夫にも任せられることが心強く感じました。
――復職してから助けになった制度は?
特に助けられたのは、仕事と育児の両立を支えるカフェテリアプラン制度です。私たち夫婦ともに実家が遠方で、近くに頼れる身内はいません。カフェテリアプランでは残業・出張時に利用したベビーシッター費用などを会社が負担してくれるので、うまく活用しながら乗り切っています。夫婦とも仕事が忙しいと予め分かっている時には、遠方に住む私の母が来てくれることもあるのですが、その際の交通費も会社が負担してくれる。交通費を気にせずお願いできるのはありがたいです。
――ダイキンでは2011年から全社を挙げて女性活躍に注力されていますが、仕事と育児の両立の視点から職場環境に変化を感じる点はありますか?
私の周りでも子育て世代の女性・男性ともに管理職として活躍しており、上司も子育てをしながら仕事をしているので、理解を得やすい環境だと感じています。保育所へ子どものお迎えに行く男性も多く、育児と仕事の両立が特別なものではなくなっています。
育休復帰後、夫婦で「仕事と育児の両立セミナー」に参加し、子育て世代との交流を持つことができました。両立のコツを聞けるというメリットもありますが、それ以上に「みんな苦労はありつつ頑張っているんだな」という同士感を得ることができたのは大きな収穫でした。
――育休復帰後半年で課長職に昇進していますが、マネジメントの難しさは?
昇進当初は、部下の仕事に対するマネジメントに加え、一担当としての仕事も全て自分で抱えていましたが、回らなくなり仕事のやり方を変えました。とにかく、1人で全てやらなければ…という意識をなくし、チームで取り組む。チームメンバーへの情報共有を徹底し、「私しかわからない」をなくすようにしています。
子育てを通じて思うことは、1人でできることには限りがあるということ。周りを巻き込みチームを組む、これが部下の育成にもつながっていると信じています。
――今後のキャリアについて考えていることは?
子どもはとても大切な存在ですが、長い目で見ると子育てだけが自分の人生ではない。仕事と育児を両立し、学び続け、成長し続けることでキャリアアップしていきたいです。