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Kansai D&I News
2024.4.26 オピニオン

女性が管理職として活躍できる組織づくりを
――関西学院大学 経営戦略研究科 教授 大内 章子 氏

関西学院大学 経営戦略研究科 大内 章子 氏

関西学院大学 経営戦略研究科 教授
大内 章子 氏

 総合商社での勤務を経て研究者の道を選んだ大内章子教授。女性の就業継続や管理職昇進など女性のキャリア形成の研究を背景に、女性向けのビジネスプログラム「ハッピーキャリアプログラム」を立ち上げ、企画運営を担う。大内先生に女性活躍の現状や課題、プログラム立ち上げの経緯や今後の展望を聞く。

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――総合商社での勤務を経て研究者の道を選んだきっかけを教えてください。

 総合商社に入社したのは1989年、男女雇用機会均等法の施行から3年後です。入社後は経理部門に所属となりました。当時の働き方では商社に限ったことではありませんが、深夜に帰り、土日も出勤、ゴールデンウィークも休めず、今でいう過労死ラインを超える残業時間がざらという人が多かった。当然、同僚の男性社員は家庭を顧みることができない。私自身も結婚して子供が生まれればこんな生活は無理だなと感じるようになりました。

 男女雇用機会均等とはいうものの、長時間労働が必須で、男性は仕事、女性は家庭という性別役割分担を前提に社会が回っている。これはおかしいんじゃないかという気持ちがふつふつと湧き、解決策を探すためにも大学院で学ぶことを決めました。そこから、女性のキャリア形成をテーマに研究を始め、研究者として歩むことになりました。

 また、当時、総合職で採用されても、男性と同じ仕事をさせてもらえる人は多くなく、男性と同じ仕事をしていても、男性であれば出席できる会議に出させてもらえない、上司のかばん持ちをしながら仕事を覚えるのに女性だとかばん持ちをさせてもらえない、その一方で、当時「女性の仕事」とされたお茶出しや机拭きの当番には組み入れられる、女性だからと一般職の業務の一部を配分される、というようなケースも多かったです。さらには、総合職なのに一般職と同じ業務しか与えられない人も少なからずいました。男女間で配属や与えられる仕事に差があるので、社歴が長くなるほど男性との間でスキルの差が開いていく。こうした状況に疑問を抱き辞めていく人が多くいました。この状況を研究で明らかにしていく必要があると考えたことも退職した理由の一つです。

――政府は、プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を、2030年までに30%以上にすることを目標に掲げています。現状と課題をどう捉えていますか?

 企業は数値目標を達成することを目的にするのではなく、人を育てることに本気で取り組まなければならないと考えています。女性に負荷の少ない仕事を任せるのではなく、修羅場をくぐる経験をしてもらい成長を促すことが重要です。総合職にも関わらず一般職と同じ仕事を任せている、対外的な交渉事や責任の重い仕事から外す、転勤や出張の多い部署には配属しない等、誤った配慮を続けてきた結果が今の管理職比率に現れています。よく女性は管理職になりたがらないといいますが、男性とは育成のされ方が異なり、経験値に差があるなか、簡単に承諾できないというのが本音ではないでしょうか。業務配分や配置転換、職域拡大にどう取り組むか本気で考えていただきたいです。

 加えて、意思決定層に女性を増やしていくことも重要です。2016年に女性活躍推進法が施行されて以降、女性管理職比率は上がっています。しかし、女性管理職のなかには、部下を持たず管理職を補佐する課長(部長)代理や、一般職をまとめるリーダーのような「女性用役職」に留め置かれている人も多くいます。数値上は女性管理職比率が上がってきても、部長クラス等意思決定層の多くは男性が占めている。この状況で社内登用の女性役員を増やしていくのは難しいと考えています。

――大内先生は、研究を進める一方で、女性リーダーを育成する「ハッピーキャリアプログラム」を展開されていますが、開設の背景とプログラムの概要をお教えください。

 「ハッピーキャリアプログラム」は、2008年に文科省の「社会人学び直しニーズ対応教育推進プログラム」の委託事業に応募し採択されたことをきっかけに、再就職・起業を目指す女性向けのビジネスプログラムとして開講しました。プログラムのコンセプトは「女性の活躍は企業を変える、社会を変える」と「自分らしく働き、生きる」。3年間の委託事業が終わる際、「このプログラムのおかげで人生が変わった。一人でも多くの女性がそういう思いができるようにプログラムを続けてほしい。」というありがたい声を数多く頂き、育児休業からのスムーズな復帰をめざす方も対象に加えて「女性の仕事復帰・起業コース」としてプログラムを継続することになりました。

 そうしたなかで、2014年に文科省で「高度人材養成のための社会人学び直し大学院プログラム」の公募がありました。私自身の研究から、仕事を続けても管理職になる女性が少ないという問題意識があり、役員・管理職として職場で活躍するリーダーを養成することを目的に「女性リーダー育成コース」を立ち上げました。これは、リーダーシップや組織マネジメント、最新の経営知識などを学ぶプログラムです。

――プログラムを開始されてから15年以上が経過していますが、開始当初と比べて、内容や受講者の意識に変化は感じますか。

 「女性の仕事復帰・起業コース」はその後、「女性のキャリアアップ・起業コース」に名称を変えました。単に仕事復帰・起業することがゴールではなく、働き続けるなかで社内外のキャリアアップをして活躍することが目的だということを明確に打ち出すために、キャリアアップをプログラム名に入れ、どんな志向の人に向けたものかを明確にしました。

 「女性リーダー育成コース」「女性のキャリアアップ・起業コース」とも、開講当初から自身や環境を変えたいという思いやプログラム受講の熱心さは変わりません。学びを通じて修了後もキャリアアップしている人が多く、人的ネットワークも広がっています。例えば、起業した方は期を越えてコラボレーションし新たな事業を生み出しています。また、キャリアアップやリーダーをめざす方にとっても、職場とは違う環境で同じ志を持つ仲間と一生付き合えることは大きなメリットだと考えています。

――最後に、メッセージをお願いいたします。

 人手不足が深刻化するなか、企業は多様な人材を活用していかなければ生き残れない時代になっています。今は共働きが多くなり、家事や育児に参加する男性も増えています。女性も男性と同じようにキャリアを積み、管理職になっていくという道をつくらなければ、結局は男性が役職を兼務することになり多忙になる。女性の活躍は男性の働き方を映し出す鏡で、表裏一体です。かつてのように、男性は仕事、女性は家庭という役割分担を前提とした働き方を続けていては、企業は優秀な人材を確保すること自体が難しくなります。企業には女性活躍に本気で取り組んでほしいですし、女性は自ら学ぶ機会を得て、スキルを磨いてほしい。私は研究者の立場から企業の方々が女性活躍を推進しやすいよう、研究成果やプログラムの提供をしていきたいと考えています。

≪プロフィール≫
大内 章子 (おおうち あきこ)

関西学院大学経営戦略研究科教授。
総合商社勤務の後、慶應義塾大学大学院商学研究科で学び、博士(商学)。三重大学人文学部助教授を経て現職。
女性の就業継続や管理職昇進など大卒女性ホワイトカラーのキャリア形成を継続調査研究する。日本労務学会研究奨励賞受賞。これらの研究活動を背景にして、2008年より、女性のキャリアアップ・起業、リーダー育成の事業「ハッピーキャリアプログラム」を企画運営する。