1. Home
  2. Kansai D&I News
  3. 日本企業における外国人材の活躍には歩み寄りと相互理解が必要――ユニバード 代表取締役 エンピ・カンデル 氏
Kansai D&I News
2024.5.17 オピニオン

日本企業における外国人材の活躍には歩み寄りと相互理解が必要
――ユニバード 代表取締役 エンピ・カンデル 氏

ユニバード 代表取締役 エンピ・カンデル 氏

ユニバード 代表取締役
エンピ・カンデル 氏

 2005年に21歳でネパールから来日。日本語学校を経て、大学で経済・経営を学び日本の企業に就職。企業と留学生のマッチング、企業への啓蒙活動を行った後、2017年に外国人留学生の就職や企業の外国人採用・定着をトータルに支援するユニバードを設立。代表取締役を務めるエンピ・カンデルさんに、外国人材の活躍や組織の多様化に必要な視点などを伺った。

イメージ画像

――ご自身のキャリアと外国人材の活躍支援に取り組むきっかけとなったできごとがあれば教えてください。

 2008年のリーマンショック以降、日本の採用市場が大きく変化し、私が就職活動をした2010~11年頃は2人に1人しか就職できない時代でした。日本人でも就職浪人をしていたし、外国人で就職できた人はほとんどいませんでした。私も200社ぐらい採用試験を受けましたが、なかなか内定には至りませんでした。

 日本での就職活動を通じて、外国人採用に消極的な日本も、これからは人口が減り、国内・海外のビジネスに外国人の力が必要になると感じました。当初から起業を考えていましたが、日本企業の考え方を知っておいたほうがいいというアドバイスを受けて就職し、企業と留学生とをマッチングする仕事に2年半、企業の外国人採用を支援する活動に4年携わりました。2017年にユニバード社を設立。日本の外国人採用が、中国、韓国、台湾といった東アジアから、ベトナム、インドネシア、ネパールなどの非漢字圏にシフトするなかで、日本の正しい情報が海外に伝わっていないと感じ、情報発信を積極的に実施しました。より日本が求めている人、より日本に合う人に来日してほしいと考えたからです。現在は、日本語学校への入学から専門学校や大学への進学、企業への就職・定着までをトータルに支援するコンサルティング事業を行っています。

――外国人を採用する動きが広がっていますが、外国人留学生の日本国内での就職の現状をどのようにとらえていますか?

 外国人留学生の就職率は30~40%程度です。日本で就職できなかった優秀な人がシンガポールやアメリカなどへ行くこともあり、日本はもったいないことをしていると思います。一方、日本企業の外国人採用ニーズが高まっていますが、希望する企業のうち6~7割しか採用できていません。理由は、外国人の採用基準が日本人と同じだからです。日本の企業は、日本人と外国人を差別しないために同じ基準で採用していると言いますが、私はそれこそが差別だと思います。留学生の多くが、企業の求める日本語能力に達していません。日本語を母国語としている日本人に比べて、外国人留学生は数年しか日本語を勉強していないという点を配慮してほしいです。まずは外国人を採用していることをホームページで開示すること、どのような外国人を採用するかを外国人社員の活動紹介などで明示することが必要です。

――入社した外国人材に活躍してもらうには何が必要だとお考えですか。

 今問題になっているのが職場の人間関係です。上司の指導・指示の仕方や理解の有無で人間関係が悪化し、辞めてしまうケースが非常に多い。例えば書類の作成を依頼する場合、日本では「明日までにやっておくように」と伝えるだけですが、海外では、「明日の17時までにホームページの事例集を作成すること。参考資料はここにある。わからないときはAさんに聞いてください。途中確認を明日9時に行います」と細かく指示をします。日本では部下に仕事の段取りが任せられていますが、海外では仕事のプランニングを上司が行います。この違いをまず伝える必要があります。私は自ら考えて仕事を進める日本のやり方の方が好きです。

 だからこそ、上司と外国人社員の関係を取り持つメンターが必要です。これは人事の役目ではないでしょうか。上司の指示の意図を説明し、何か困ったことがあった時に外国人社員が相談できる人が社内にいることが重要です。

――企業が多様な人材を雇用する価値は何だとお考えですか。

 同じような考え方を持っている人たちよりも多様な考え方を持っている人たちの方が、よりイノベーションが起きやすく、新しいアイデアが生まれやすい。外国人に日本で働いてもらうことが、5年後、10年後にその国で仕事が生まれる可能性にもつながります。社員数30人の京都の会社が外国人採用をきっかけに海外で展示会をするようになり、売上の30%を海外で占めるようになった例もあります。これは、外国人が一緒に働くことで生まれた価値です。人材の多様化は日本企業が成長し生き残っていくために不可欠だと思います。

――日本での就職を希望している外国人留学生は、どのような理由で日本の企業を選んでいるのでしょうか。

 将来自分で会社を起こし、何かをしたいと考える人はグローバルスタンダードな企業を、日本にずっといたい、会社員として働き子どもを日本で教育したいという人は年功序列型の企業を好む傾向があるように感じます。

 日本は安心安全で、アジアの人にとってヨーロッパやアメリカに比べて留学しやすい。日本企業の新人教育は海外企業よりも優れているとされ、日本の企業に3年間勤めた人はどこの国の企業でも高く評価されます。外資系企業はキャリアアップをするのに転職が必要とされていますが、日本企業なら同じ会社でキャリアアップできます。日本でずっと暮らしたいと思えば、企業に就職したほうが住宅ローンも組みやすい。日本企業の魅力はまだ10年ぐらいは薄れないと思います。

――企業の人事担当者や大学の先生・就職担当者へメッセージをお願いします。

 企業の人事担当者には、第一に、海外の知識を得ることから始めていただきたいと考えます。その国がどんな国で、どんな食べ物を食べているのか、どんな教育を受けてきてどんな考えを持っているのか、興味を示すことが重要です。第二に外国人に歩み寄ることです。日本人と同じ基準では外国人は採用できません。第三に相手に合わせて話すことです。人事担当者の話し方で企業の印象が変わります。

 大学の先生や就職担当者には、面接時の注意事項を伝える前に、日本の企業文化を留学生に教えていただきたいです。日本は時間厳守の意識が強いですが、10分以内の遅刻は遅刻とみなさない国もあります。「面接に遅刻してはいけない」ではなく「日本は時間を守ることが信頼関係構築の第一歩。1分でも遅刻すれば、どれだけ優秀であっても不合格になる。」と丁寧に伝えることが重要です。命令や叱責ではないかたちで、日本の文化を教えてあげてほしい。企業と留学生とがお互いに相手を理解することによって、より一層の外国人材の活躍につながると考えます。

≪プロフィール≫
エンピ・カンデル

1983年ネパール生まれ。2005年に来日。2011年から留学生支援を行う。2017年にユニバード株式会社を立ち上げる。2020年4月から、JETRO高度外国人材スペシャリスト業務に従事。2022年4月から、東京外国人採用ナビセンター企業コンサルタント専門家業務に従事。13年間外国人材採用コンサルタントとして、日本企業が外国人採用で直面する様々なトラブルに対し、解決策のコンサルティングを行う。また金融機関をはじめ、外国人採用に意欲的な企業や留学生向けにセミナー指導を実施するなど、幅広く活躍中。