青木松風庵 代表取締役社長
青木一郎 氏
大阪土産の定番、みるく饅頭「月化粧」で知られる青木松風庵。管理職の7割が女性で、社歴や雇用形態に関係なく能力のある人材を登用し、女性活躍の先進事例として2024年関西財界セミナー「輝く女性賞」を受賞した。今回は、三代目社長の青木一郎さんに女性活躍の取り組みの考え方や施策、その成果等についてお話を伺った。
――管理職の7割が女性と、多くの女性が活躍されていますね。
当社は全仲間(従業員)のうち男性が15%、女性が85%と女性の割合が多いのが特徴です。お菓子の製造販売会社なので正社員、パートタイマー、アルバイトともに女性の応募が多く、自然と女性比率が高まりました。1984年の創業当初から女性は多かったのですが、約25年前に360度評価制度を導入し、評価が高い人を管理職に登用していった結果、管理職の7割が女性になったのです。
――360度評価導入のきっかけと仕組みを教えてください。
現会長が社長の時、ある人を工場の管理職に任命しようとしたら、パートタイマーの方から「社長は見る目がない。別の人の方がメンバーから信頼されている。」と言われたことがきっかけです。普段現場にいない社長が決めるのではなく、上司、部下、同僚の評価をもとに決めたほうが、より納得感が増し、働き方にも良い影響を与えると考え、360度評価制度を導入しました。
例えば店舗の場合、店長や同僚、パートタイマーも含め、全員が一人につき10点満点で評価し、自己評価を除く合計点数で順位を付けるという仕組みです。昇進や昇給、賞与も360度評価をもとに決めています。当初は技術面・コミュニケーション面など細かく評価基準をつくっていましたが、細かくするほど評価が難しくなるので、現在は点数とその理由のみを評価基準としています。ある人は人間性をメインに評価し、ある人は技術面をメインに評価するなど、評価軸は人それぞれです。360度評価制度の導入によって、優秀な人を早く登用できるようになりました。店長の6割以上がパートタイマーから昇進しています。
――女性活躍推進に向けた取り組みの基本的な考え方と具体的な施策を教えてください。
男性だから女性だからという概念はなく、能力の高い人を登用しています。女性が多いこともあり、働きやすい職場づくりの一環として、企業内託児所を2020年12月に開設しました。当社はゴールデンウィークやお盆、年末年始が繁忙期にあたり、その期間は一般の保育所が休みになってしまうため子供を預けにくい状況にありました。当社が運営する月化粧保育園は、正月を除き年中無休であり、基本全額会社負担で6カ月から3歳までの乳幼児を預かっています。そうすることで、産休・育休後に仕事に復帰する人が増えました。
――女性活躍推進の取り組みの成果をどのようにとらえていますか? また、取り組みの課題があればあわせてお聞かせください。
社員・準社員・パートタイマー・アルバイトに関わらず会社の仲間です。雇用形態ではなく仲間として管理職を登用していることが、女性活躍につながっていると考えています。当社は子育てがひと段落した後、パートタイマーとして入社される方が多くいます。パートタイマーの方には、冠婚葬祭の知識が豊富で、コミュニケーション能力も高く、また子育ての経験から人への指導に長けている方が多くいる印象があります。
課題は、管理職の高年齢化です。パートタイマーとして40代で入社して50代で管理職になるケースが多く、60代になると体力的にもきつくなります。そこで新しい管理職を育成するために、新たな管理職候補者を決めて年に一度の管理職研修に参加してもらい、管理職の考えや方針を聞く機会を設けています。
――働き続けやすい環境をつくるために行っていることがあれば教えてください。
当社の仕事は繁忙期と閑散期の差が大きく、ゴールデンウィークやお盆、年末年始などの繁忙期に出勤可能かどうかの確認を面接時に必ず行います。人それぞれ働き方が違うので、一定のルールではなく個々の事情に合わせて勤務場所や勤務時間を決めています。また、頑張った後は皆で楽しもうという考えから、繁忙期の後は会社主催の慰労会を行い、仲間の親睦を深めています。ゴールデンウィーク後は旅費を全額会社負担で社員旅行を実施しており、2024年は台湾と金沢を予定しています。お盆の後はビアガーデンで納涼会、年末年始の後はホテルで新年互例会、3月のお彼岸の後はお花見を行います。
――「仲間とその家族を大切にすること」を経営理念に掲げておられますが、経営者として意識されていることや大切にされていることを教えてください。
「仲間とその家族を大切にすること」という経営理念を掲げたのは、創業2年目に社員を採用したのがきっかけでした。会社をきちんと運営し、仲間である社員とその家族が生活できる収入を確保するという考えからスタートしています。頑張った分は仲間に還元する。そのために給与体系や休日を充実させてきました。仕事もプライベートも充実することで、全員が「幸せや」と思える環境をつくっていきたいと考えています。また、緑化基金やイベント協賛、学校給食へのお菓子提供など「地域社会に貢献すること」も大切にしています。全員が同じ船に乗った仲間として「おいしいお菓子をつくること・お客様を大切にすること」を日々実践してほしいと伝えています。
――今後、特に取り組んでいきたいことを教えてください。
おいしいお菓子を通して人を笑顔にすることをこれからも続けていきたいと思います。日本のお菓子のクオリティは世界でもトップクラスと考え、海外への輸出も視野に入れています。2025年の大阪・関西万博にも出店し、国内外から多くの方が大阪に来られる機会に月化粧のおいしさを発信していきたいと思います。