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Kansai D&I News
2024.6.17 企業の取り組み最前線

同質性の高い組織にはリスクも。外国人社員の採用で組織に多様性を
――カワソーテクセル 代表取締役 稲付 嘉明 氏

カワソーテクセル 代表取締役 稲付 嘉明氏

カワソーテクセル 代表取締役
稲付 嘉明 氏

 1877年に洋食器製造の企業として創業したカワソーテクセル。現在は、電力用の碍子(がいし)やセラミック製品、半導体関連装置部品の製造を手がけている。同社は、外国人の方を社員として積極的に採用し、海外への販路拡大等を進めてきた。代表取締役の稲付嘉明さんに、外国人社員の採用のきっかけや成果についてお話を伺った。

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――2015年に初めて留学生を採用されたとのことですが、外国人の方を社員として採用したきっかけを教えてください。

 当社の主力商品の一つであるファインセラミックを、韓国企業と取引を始めたことがきっかけです。その企業の社長は日本語を話せたのですが、多くの社員の方々は話せませんでした。継続的な取引を行うためには、社長以外とも密にコミュニケーションを図り、関係性を築く必要がありました。そこで韓国語を話せる人材を採用しようと決め、2015年に外国人社員第一号として、韓国人女性を採用しました。

――採用にあたっての苦労や難しかった点を教えてください。

 正直、難しさや苦労は特にないですね。それよりも、これほど熱心で優秀な人に出会えるのかという驚きの方が大きいです。

 初年度の採用活動では、留学生採用合同セミナーに参加しました。このときは、BtoBメインの当社に訪問してくれる学生さんは少ないだろう、まずは様子見だ、と気楽な気持ちで出展しました。しかし、実際には40人以上の学生さんが訪れ、質問も多く出て、慌ただしかったことを覚えています。仕事や就職に対する熱量が高く、様子見的に参加したことを申し訳なく思ったほどです。

――採用活動や入社時に気を付けていることがあれば教えてください。

 採用活動においては特にありません。私たちが行っているのは留学生採用であり、何年か日本で暮らしている学生が対象です。したがって、日本のことはある程度理解していますし、日本人学生とコミュニケーションをとることも多いので、特別な配慮は必要ないと考えています。

 入社時には、ビザの取得を会社主導でフォローしています。ビザの取得時には、本人の知識や技術と、企業の採用理由に一貫性があるかが問われます。私どもが、採用経緯や職務内容などを記載した雇用理由書を作成し、会社にとってどれだけ必要な人材であるか、出入国在留管理庁に伝えるようしています。

――外国人の社員に日本で働き活躍し続けてもらうために、何か工夫していることはありますか。

 会社に馴染むまでは、経営者の目の届く場所に配属することです。当社は広島や愛知、東京にも拠点がありますが、採用した外国人社員は、まず大阪本社か堺工場に配属しています。外国人社員の採用は経営判断として行っているもので、社員も意図やねらいを理解していますが、初めのうちは経営者の目の届くところに配属し、実際に起こっていることを目で見て感じる必要があります。これは、問題が起こるのではないか、というネガティブな感情からではありません。採用の成果を経営者自身が感じ、それを本人に伝え、フィードバックすることで、さらなる活躍につなげるためです。

 また、社員が人間関係を築きやすいように配慮しています。例えば、複数人の外国人社員を採用しています。他にも、これは外国人社員に限ったことではないですが、社内サークルや食事会に会社から助成金を提供しています。困ったときに誰かに相談できる、ミスをして落ち込んだときに誰かに話を聞いてもらえる、そんな人間関係があれば長く働きたいと思ってもらえるのではないでしょうか。

――外国人の方を採用して良かったことを教えてください。

 まずは、優秀な人材を獲得できることです。日本の学校に留学し、日本企業への就職を目指す留学生の多くは、自分のなかで人生設計ができていて、目標に向かって行動する力を持っています。そういった優秀な人材を獲得できたことが大きな価値であるととらえています。

 また、社内の活性化も大きな成果でした。初めて外国人を社員として採用した2015年当時、当社の営業職には男性しかおらず、女性は事務職を担っていました。そのため、会議や打ち合わせにおける発言は男性のみという状況でした。ところが、韓国人女性が海外営業の担当として入社したことで社内風土は大きく変化。お客さまとコミュニケーションをとり、社内でも他の男性社員と対等に渡り合い意見を交わす彼女の姿を見て、控えめだった女性社員も積極的に議論に入るようになりました。さらに、彼女の採用が若手にも良い影響を与えたと感じています。当社には、先輩のやり方を踏襲するのが良いという雰囲気がありましたが、自分の考えを持ち、先輩にも臆せず意見する、そんな若手が増えたと感じています。

 私は外国人の社員を採用する以前から、もっと思っていることを言っていい、皆で議論することが重要、と口を酸っぱくして社員に伝えてきたつもりでした。ただ、なかなか口で伝えるだけでは社内風土は変えられません。そこに違う価値観を持つ外国人の社員が入ることで、雰囲気が大きく変わり、組織が活気づいたことを、大きな成果ととらえています。

――日本人と比較して外国人は定着しにくいというデータもあります。
外国人社員の定着についてどのようにお考えでしょうか。

 最初に採用した韓国人の女性は3年ほど在籍し、その後家業を継ぐため退職しました。しかし、当社では2015年以降、アジア圏の留学生を中心に外国人の方を社員として採用し続けているため、仕事を進めるうえで影響はありません。

 私は一定期間勤務した後、母国に帰ってもいいと考えています。外国人の社員は、在籍期間が2~3年であっても、社内の雰囲気を変え、社員に刺激を与えてくれます。日本人でも今は転職が当たり前になってきていますしね。誰かが辞めてしまっても仕事に影響が出ないよう引き継げる人材を育てておく、これは経営者の責任だと考えています。

――外国人社員の採用を検討している企業へのメッセージをお願いします。

 検討しているのであれば、まずは採用してみては。採用すれば、会社の雰囲気や根付いた価値観が揺さぶられ、また違った景色が見えてくるはずです。製造業では技術流出を懸念する企業もいらっしゃると思います。そうであれば、まずは知的財産や特許等に関わらない部署で採用してみてはどうでしょうか。

 同じ価値観の人だけが集まる組織は居心地がいいかもしれません。しかし、変化の早い今の時代において、同質性が高く多様性のない組織は危険であり、多様性の失われた組織は淀んでいきます。異なる価値観を持つ外国人社員の採用が社内の閉塞感を打破し、新しい価値を生み出す突破口になりますよ。