住友電気工業 執行役員
國井 美和 氏
エンジニアとして住友電工に入社し、自ら手を挙げて人事に異動。2020年に住友電工グループ初の女性執行役員になった國井美和さんに、ご自身のキャリアや女性活躍における課題についてお話を伺った。
――ご自身のキャリアのなかでターニングポイントだったと感じるできごとをお教えください。
キャリアを振り返ると部署異動がターニングポイントでした。
入社してからずっと技術畑を歩んできましたが、入社13年目に人事に異動。技術系の採用を担当することになりました。技術部門では担当するシステムをどうやって形にしていくか試行錯誤する日々を過ごし、専門性を深めることに注力しました。一方、採用活動を行う上では、他部門の仕事や会社全体についても知り、会社のことを応募者に対して、より魅力的に伝える必要があります。会社という組織全体を見渡すことができ、視野がぐっと広がりました。
数年を経て、アメリカのグループ会社に異動。採用と人材育成がミッションでした。驚いたのが見知らぬ日本人の女性から「私も人事を担当しているので一度お会いしませんか」とメールが届いたこと。これまで社内でのコミュニケーションに終始していた私にとって、社外からも情報を仕入れようという貪欲な彼女の姿勢にショックを受けました。以降は積極的に、様々なイベントに参加し、人脈を広げていきました。
私にとって部署異動は視点が変わり、視野が広がるポイントだったと感じています。
――これまで様々な仕事や役職を経験されていますが、共通してご自身が大切にされている考えを教えてください。
楽しむことですね。私自身大きな目標や志を持ってキャリアを築いてきたわけではなく、その時与えられた役割のなかでやりたいことを見つけ、楽しんで仕事を進めてきました。もちろん、私がやりたいと思ったことに対し、皆が賛成というわけではありません。2014年にダイバーシティ推進グループ長として在宅勤務制度の導入に向けて動き始めた時は、「ダイバーシティとどう関係があるの?」「会社に来ないと仕事にならないでしょ」という反応。それでも仕事と育児との両立を考えると在宅勤務は必要。女性のキャリアの断絶を防ぎ、仕事をやりきるための環境づくりにつながると会社を説得し、トライアル導入からスタート。コロナ禍で一気に全社員に広まりました。
やりたいことはすぐには見つからないかもしれません。それでも目の前の仕事を楽しみ、仕事を通じて信頼関係を構築することが、目標を見つけ、達成できる環境をつくることにつながると考えています。
――先ほど女性活躍に向け在宅勤務制度を導入したというお話がありましたが、管理職に目を向けると日本の女性管理職比率はまだまだ低水準です。増やすためには何が必要だとお考えですか。
日本の管理職の平均年齢が50歳前後であることを考えると、現段階で女性管理職を劇的に増やすのは難しいのではないでしょうか。子育てのタイミングで退職している人が多く、50代の女性で会社に残っている人自体少ないのが現状です。40代になると随分人数が増える。登用基準を見直し、40代や30代でも優秀な人は管理職に登用できる制度や仕組みを整えることも必要ではないでしょうか。
――30~40代で管理職となると、子育て期と重なってくる可能性があります。両立するためには何が必要でしょうか。
働き方、評価の仕方、仕事のアサイン方法など、業務遂行に関わるすべての部分を変えていかないといけないと思います。当社のような製造業では24時間稼働する工場があります。工場では突発的な現場対応もあり、なかなか在宅勤務は難しい。例えば、管理職補佐を付けて、管理職不在時は補佐が判断する仕組みを整えるなどが必要ではないでしょうか。これは女性活躍のためだけではなく、すべての人が働きやすく、能力を最大限発揮してもらえる職場づくりという意味で取り組む必要があると考えています。
――その他、多様な人材が活躍できる組織をつくるために何が必要ですか。
社員が主体性を持って取り組める環境づくりです。そのためには、一人ひとりと丁寧にコミュニケーションをとり、わくわくするようなビジョンを語りモチベートしていくマネージャーの役割がより一層重要になります。
私も人材開発部長としてマネジメントしていく立場。人材開発部は育成・教育を担っているのですが、ややもすると研修を実施することが仕事になってしまう。教育を武器に組織をいかに活性化させるかを各メンバーが主体的に考え、動けるよう試行錯誤の日々です。
――最後にD&Iの担当者にメッセージをお願いします。
制度や仕組みが整いつつあり、あとは意識変革など難しい部分を継続的にやっていかなければならない。D&Iは一朝一夕にはいかないフェーズに来ていると思います。担当している方は成果・結果が見えにくいなか苦労されているのではと推察します。
それでも、やり続けることが組織を強くし、会社の成長につながります。何のためにやっているのか、目的を見失わずに頑張ってください。