学校法人立命館 理事長
森島 朋三 氏
1869年、新しい時代を担う若者を育てるため西園寺公望が私塾として始めた立命館大学。西園寺公望の自由主義・国際主義の精神を受け継ぎ、グローバル人材の育成に尽力する学校法人立命館で理事長を務める森島朋三さんに、留学生の就職と企業に求めることを聞いた。
――グローバル化を進める意義とこれまでの成果をお教えください。
目指すのは「突き抜けたグローバル化」。本学では1988年に国際関係学部を開設し、2000年に立命館アジア太平洋大学を開学、2019年にグローバル教養学部を開設し、国際教育に力を注いできました。国際関係学部のグローバルコース、グローバル教養学部では、日本と海外の2つの学位を取得できるダブル・ディグリーを導入。アジア太平洋大学では留学生が半数を占め、日本語と英語による日英二言語教育システムを展開しています。
教育プログラムの策定にあたり、根底にある考え方は「国際的に通用する人材を育成し、日本の競争力を高めること」。語学ができればグローバル人材というわけではありません。求められているのは、相手の文化的背景を理解したうえで高度な交渉ができる人。本学では留学生との交流や留学などグローバルを体感できる教育環境を提供し、真のグローバル人材育成をめざしています。
高校教育では、立命館宇治高等学校において、日本の高校卒業資格と世界中の大学への出願資格を得られる国際バカロレア・ディプロマ資格の両方を取得できるカリキュラムを整備。ハーバード大学をはじめ世界トップレベルの大学に入学する学生も出ています。
――留学生への就職支援はどのように行っているのでしょうか。
日本の就職活動は、ほぼすべての企業が一斉に採用活動をスタートするなど独特な面が多くあります。よって、新入生のオリエンテーションで就職活動についてアナウンスし、就職活動時には面接練習や留学生対象の企業説明会などを実施しています。
特徴的なのは、キャリアカウンセリングや就職ガイダンスといった面接練習以外のキャリア支援をすべて英語で実施していることです。今後は中国語など多言語展開をしていきたいと考えています。
――留学生の就職活動で課題に感じていることはありますか。
企業への要望になるのですが、留学生向けの採用フローを準備してもらえるとありがたいです。また、一括採用だけではなく通年採用を活発に行うこと、留学生の語学力や日本人とは違う発想を評価してほしいと考えています。理想を言えば、選考を英語で実施する企業が出てきてほしいと思います。もちろん、日本企業で働くうえでは日本語でのコミュニケーション能力が必須ということは理解しています。そのうえで、現時点での日本語力だけでなく、伸びしろや多言語を話せる能力なども含め総合的に判断してもらえればと思っています。
本学の留学生のうち約6割が日本での就職を希望しています。多くの留学生が日本企業でグローバルに活躍してほしいと願っています。
――先ほど通年採用の話がありましたが、通年採用のメリットは何だとお考えですか。
日本と海外の2つの学位を取得できるダブル・ディグリーを導入しているグローバル教養学部では、3年生は1年間オーストラリア国立大学に留学します。ちょうど日本での就職活動と日程が重なるため、個々人でリモート面接を受けられるよう依頼をしたり、面接日は帰国したりして対応しています。
しかし、本来であれば大学3年生は専門性を高めていく時期です。この時期に就職活動が重なると、学生が専門性を身につける機会が減ってしまいます。通年採用の活発化により、4年生の後半であっても卒業後であっても採用されるようになれば、専門性を身につけ、深く学んだ学生を採用できるため、企業にとってもメリットがあるのではないかと考えています。
――留学生が日本企業で活躍する価値をどうとらえていますか。
高い技術力を持つ日本ですが、国際競争力は低迷していると感じます。課題解決の一つの方策として、留学生の採用は有効と考えています。
日本では、少子高齢化が進み生産年齢人口が減少していく人口オーナスが進んでいます。こうしたなかで成長戦略を描くとなると、海外に打って出るしかない。海外市場を開拓していくにあたり、留学生を採用しない手はないでしょう。以前、食品メーカーさんに立命館アジア太平洋大学の留学生を対象としたサンプリングやヒアリングを提案したことがあります。実施してみると、味覚の感じ方は国によって異なり、食文化とも深いかかわりがあることが分かりました。留学生を採用すれば、このような簡単な現地調査も社内でできるし、市場開拓に携わってもらうこともできます。留学生に活躍してもらうことが企業の競争力強化につながると考えています。
――最後に企業に向けてメッセージをお願いします。
業界を問わず世界と勝負をしていく必要があるなか、グローバルでダイバースな採用をぜひお願いしたい。多様な視点を持った人材を採用し、個性や強みを認め合って、それを活かせる環境をつくることが、事業拡大につながります。
我々としては、優秀な人材を送り出すため、教育システムを磨き、競争力強化に貢献していきたい。日本の学生はアメリカの学生と比較すると勉強時間が圧倒的に少ないのが現状です。大学4年間を遊んで暮らしているようでは世界と戦えないと危機感を持っています。本学では少人数教育を主として、ディスカッションやプレゼンテーション形式の学びを多く採用した学部をつくり、日本の学生は勉強しないというステレオタイプを打破できるカリキュラムをつくっています。これをさらに磨き上げ、世界に通用するグローバル人材を輩出できるよう尽力していきます。