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Kansai D&I News
2024.9.1 企業の取り組み最前線

意思決定層の多様化でVUCA時代を勝ち抜く
――三井住友海上火災保険

人事部 DE&I チーム長 加藤 茜 氏

人事部 DE&I チーム長
加藤 茜 氏

人事部 DE&Iチーム 課長代理

人事部 DE&Iチーム 課長代理
柴山 佳瑶子 氏

ダイバーシティ推進室加藤航士氏

人事部 DE&Iチーム 課長代理
棚橋 真里 氏

 女性活躍の重要性が叫ばれるなか、女性役員比率は過去10年で徐々に上昇し、2023年時点でプライム市場上場企業においては13.4%となった。しかし、諸外国とのギャップは依然として大きい。

 女性活躍を推進し、意思決定層の多様化を進める三井住友海上火災保険DE&Iチームの加藤 茜さん、柴山 佳瑶子さん、棚橋 真里さんにDE&Iへの取り組みや成果を聞いた。

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――女性活躍を推進するために様々な取り組みを実施されていますが、基本的な考え方や方針を教えてください。

加藤新型コロナウイルス感染症や自然災害の激甚化など不確実性が一層高まるなか、リスクを扱う損害保険会社では、価値提供の高度化が求められています。具体的には、事故発生時の経済的損失を補償するという本来の機能に加えて、事故・災害を未然に防止すること、発生後の早期回復を支援することなど、新たな価値を提供し続けていかなければなりません。

 実現には、イノベーションの創出が不可欠であり、その原動力となるのが多様な人材が活躍できる組織づくりです。

 女性活躍においては、女性管理職比率を高め、意思決定層の多様化を進めていきたい。女性社員には、自分の強みや特性を活かしながら新たな業務・役割に挑戦してもらいたい。それが、イノベーション創出、ひいては会社の成長につながると考えています。

――意思決定層の多様化という話が出ましたが、多様化を進めるために取り組んでいることはありますか。

加藤2021年7月に女性副支店長・副部長というポストを新設しました。新たなロールモデルによって、若手女性社員が管理職を目指す意識の向上につなげるとともに、実務を経験してもらうことで、ラインマネジメントを担う部支店長(以下、ライン部長)へのステップをイメージしやすくなるのではと考え、ポストの新設に至りました。副支店長・副部長は、ライン部長の補佐としてマネジメントを担ってもらいます。例えば、部支店のビジョン作成や数値管理、代理店への販売戦略の提案などを担います。

 新設当初は意図していた役割をなかなか任せることができず、運用の難しさを感じていました。ただし、ここ数年で部支店の統合が進み、一部支店あたりのスタッフ数・担当エリアともに拡大。支店長と副支店長で担当エリアを分け、うまくいっている支店がでてきました。副支店長・副部長は、責任と権限のある職務経験を通じてライン部長を展望できる女性管理職を育成し、経営層の多様化につなげるために立ち上げたもの。3年間で延べ53人が副支店長・副部長に就き、うち13人がライン部長に昇進しました。2026年度からは、男女関係なく就けるポストに変更する予定です。

 MS&ADインシュアランスグループでは、グループに所属する女性部長・支店長を対象にした「女性部長の会」も発足。グループ全体で女性役員候補を継続的に育成する “パイプライン” づくりを行っています。部支店長同士の横のつながりを強化するとともに、他社役員との交流機会を設けることで、視野を広げ、視座を高めてもらいたいと考えます。

 また、課長職を目指す若手社員向けに「マネチャレトレーニー」を実施します。2023年度にリーダーとしての役割を修得するプレマネジメントスクールに参加した人を対象に、座学で学んだ「メンバーを活かす力」「課題解決力」などを発揮していただく機会とし、社内越境をして実際の職場で実践してもらいます。所属と異なる現場を体験してもらうことで昇進への心理的ハードルを下げ、管理職を意識してもらいたいと考えています。

女性のキャリア形成支援に向けた取り組み

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――女性が就業を継続しやすい職場環境づくりとして取り組んでいることをお教えください。

柴山特徴的な制度として、2023年度から育休職場応援手当(祝い金)を導入しました。これは、育休を取得する本人ではなく、育休取得者が所属する組織のメンバーに手当を支給するものです。

 当社では男性社員の育休1カ月取得義務化や育児両立支援給付金、復職支援として子育て中の社員との交流の場を提供するなど、様々な取り組みを実施してきました。

 しかし、加速度的に進む少子化に強い危機感を持っている経営トップから、少子化という社会課題を解決するために当社でもっとできることはないのか、と改めて話があり、人事部内で再度検討することに。当初は育休取得者に対する支援策を考えていましたが、育休取得者と職場メンバーとの溝を埋めるとともに、組織全体で子どもが生まれることを祝い、育児を応援するムードを醸成したいという想いのもと、育休職場応援手当(祝い金)を制度化しました。

 支給額は育休取得期間と職場人数に応じて設定しています。例えば13人以下の職場の場合、育休取得予定期間が3カ月以上なら10万円がパート・有期雇用社員を含む全員に支給されます。

――業務負荷に応じた制度設計と理解しましたが、1人ひとりが業務過多にならないような仕組みはあるのでしょうか。

柴山誤解してほしくないのですが、「応援手当が出るのだから、みんなで仕事をシェアしてがんばれ!」ということでは決してありません。育休はいつ休むかがある程度見通せるので、取得時期に合わせて人を配置するようにしています。例えば、期首の異動時期とタイミングが合えば部署間の異動、期中であれば派遣社員を配置など、取得時期に応じた体制をつくっています。これは、育休職場応援手当の導入前から実施しており、今後も変わらず継続していきます。

――様々な施策で女性活躍に取り組まれていますが、多様な人材が活躍することで生まれた新たな価値があればお教えください。

加藤最近、女性社員が新たな視点で商品を開発した事例がありました。凍結卵子に関わる新しい保険で、未受精卵子の凍結後、融解までの間に偶然な事故により凍結卵子に生じた損害を補償するものです。女性活躍推進と少子化問題解決に向け、損害保険業界で初めて卵子凍結保管の専用保険を開発し、社内外で話題になりました。

――今後取り組んでいきたいことをお教えください。

加藤女性に限らず、すべての人が働きやすい環境づくりです。そのためには、残業を前提としない働き方、つまり定時退社を前提とした働き方へのシフトが必要です。2023年度より全部門を対象に週2回の定時退社を実施、2024年度からは全社員の定時退社を経営目標に掲げて取り組んでいます。

 定時に退社することによって、育児や介護など家庭の「仕事」に参加しやすくなりますし、趣味や自己研鑽など一人ひとりのライフステージやキャリアビジョンに合わせて時間を使うこともできます。社外での気づきや学びを自身の成長につなげ仕事に活かしてもらい、会社の成長にもつなげていきたいと考えています。

棚橋残業を前提としない働き方の定着には評価制度の改革も必要です。2025年度に人事改革を実施し、社員のスキルを見える化して評価制度に取り入れていくよう進めています。部門によって求められるスキルが違うので難しい部分もありますが、働くうえでの基礎的なスキルである「共通スキル」と職務遂行に必要な「職務スキル」を定義していきます。働く時間や在籍年数ではなく能力で評価する仕組みづくりで、多様な人材の活躍に貢献していきたいです。

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