日本航空 人財戦略本部 DEI推進グループ アシスタントマネジャー
望月 祐里 氏
女性従業員が多く携わる航空業界において健康面から女性活躍を後押しするための実証プログラムを2023年から導入。社員がDEI*を自律的に考えるボトムアップ型のDEI研究や障がいのある人の雇用拡大など、多様な人財が活躍するための環境整備を進める日本航空。人財戦略本部DEI推進グループのアシスタントマネジャーを務める望月祐里さんにDEI推進について聞いた。
*多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)の頭文字を取った言葉で、多様性とアイデンティティを尊重し、公平な活躍機会を与えられている状態を意味する
――DEIに取り組む価値をどうとらえていますか。
人財の多様化により、変化の激しい時代を生き抜く新たな価値創造に加え、多様化するお客さまのニーズを汲んだ新たなサービスや打ち手を強化できることです。
DEIに取り組むことによって柔軟で多様な働き方の実現が可能となり、多様な社員が活躍できる環境を整えることで、エンゲージメントの向上や、やりがいを持ちながら働き続けることが可能になります。JALグループはマイル活用機会の拡大や地域活性化を目的としたJALふるさとプロジェクトなど非航空領域にも力を入れています。世の中に必要とされるサービスや価値にいち早く気づき、新たな価値提供につなげるためにもDEIの理解浸透は不可欠と考えています。
――多様な人材が活躍する組織をつくるため、実施していること、特に力を入れていることを教えてください。
DEI理解浸透に向けたボトムアップ型のクロスファンクショナルチームとして、DEIラボがグループ横断的にプロジェクト活動を行っています。
また、近年の新しい取組みの一つに、2023年に導入したフェムテック実証プログラムがあります。フェムテックとは、生理・妊娠・更年期など女性のライフステージ上にある様々な課題を解決する考え方やサービスのこと。長時間の立ち仕事を行う客室乗務員をはじめとする女性社員は、女性特有の健康課題によってパフォーマンスを欠くこともあります。そこで丸紅およびカラダメディカ社との共同でグループ全社員を対象にしたオンライン診療プログラムを導入しました。オンラインで婦人科の診療を受けることができ、薬も郵送で届くため気軽に相談ができたという声もあり、女性活躍推進の取り組みの一つとして今年度も実施しています。
もう一つは、「JAL Diversity Day」というダイバーシティへの理解浸透を深めるための社内イベントです。2019年にスタートし、コロナ期の中断を経て、2023年に再開しました。今年はLGBTQの当事者の方との対談や取り組みが進んでいる他企業さまとの連携による介護セミナーを実施しました。
そのほか、社員の自律的なキャリア形成支援にも注力しており、一時的に他部署の業務を経験できる自律的キャリア研修の実施や公募型人事ポストの増設も進めています。社内の有資格者によるカウンセリング窓口を設置しており、客室乗務員専用の相談窓口もあります。客室乗務経験がありコンサルティングの資格を持つキャリアメンバーによるカウンセリングを受けることができ、経験に基づくアドバイスを通して、ライフイベントを経験しながら一人ひとりが自律的にキャリアを描けるよう支援を行っています。
――DEIラボ立ち上げの経緯と具体的な取り組み内容を教えてください。
DEIラボは、2015年にJALなでしこラボという女性活躍推進をメインとした社内研究プロジェクトチームとして発足しました。多様な人材が活躍するためには何が必要か、チームに分かれて研究を行い、JALグループ内での実現に向けた提言を行います。2019年に名称をDEIラボに、2024年4月にDEIラボに変更し、JALグループのDEIを推進するクロスファンクショナルチームとしてグループ横断的に活動しています。
メンバーは公募で募集し、月2回勤務日に集まってメンバーが設定したテーマを研究し、研究の成果を役員に対して提言するボトムアップ型のDEI推進活動です。
2023年度は、LGBTQの理解促進、グローバル社員の活躍推進、ウェルビーイング、障がいのある社員の活躍推進という4つのテーマについて研究を行いました。今年度は、そのうちグローバル社員と障がいのある社員の活躍推進という2つのテーマを引き継いで、新しいメンバーで研究・検討を行っています。
【DEIラボ】キックオフミーティングにて、多様性を理解するカードゲームを行っている様子
【DEIラボ】集合写真
――取り組みの成果をどのようにとらえていますか。
DEIラボの研究成果として、キャリア支援の一つである自律的キャリア研修の実現があげられます。他部署の業務を一定期間経験する制度ができ、毎年2回実施しています。別の仕事を経験することで一人ひとりが自律的にキャリアを考えるうえで有効な施策になっているととらえています。
DEIの取り組みは定量的な成果を測ることが難しいのですが、女性活躍推進や多様な人財の登用によって、多様なリーダーや新しいサービスが生まれてくるといった成果も出ています。特例子会社JALサンライトのトップに客室乗務員出身の社長が就任した時に、障がいのある社員による社員向けのネイルサロンを開設しました。JALの客室乗務員には、身だしなみの一環のとして華美ではない色味のネイルが義務付けられており、社内基準も設定しています。JALサンライトのネイルサービスでは、基準に応じた色味を多く取り揃えており、特に客室乗務員から好評です。羽田空港エリアにネイルサービスルームを設けたことで、出社退社時にネイルができることもメリット。ネイルサービスをきっかけに、シューポリッシュやカフェの運営、マッサージなどの社員向けのサービスが増え、障がいのある社員の活躍の場が広がっています。
社内のみならず、ファーストクラスラウンジでのハンドドリップコーヒーサービスやシューポリッシュサービスも開始しており、活躍領域をお客さまサービスに広げ、高いサービスレベルを目指して挑戦し続けています。
――今後に向けた課題があればお聞かせください。
航空会社には客室乗務員やパイロットなど昔からの職業的な性別役割イメージの影響から、社員の男女比率に差がある部門が存在します。多様性を求め、さらにDEIを浸透させていくためには、男女を問わずジェンダーギャップレスな活躍を目指していくことが課題です。客室乗務員=女性、パイロット=男性という社会的なイメージの払拭を含め、他企業とも連携しながらジェンダーギャップの縮小に取り組んでいきたいと考えています。
また、男性社員の育休取得率の向上や介護と仕事の両立支援についても世の中の動きをキャッチしながら取り組んでいきたいですね。
今年4月に客室乗務員出身の鳥取三津子社長が就任し、出身や背景に関わらず活躍できるという希望が広がりました。多様な人財が多様なフィールドで活躍できるグループを目指してこれからもDEIを推進していきます。