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Kansai D&I News
2024.11.25 オピニオン

ハードと同時にハートの変革を 障がいを価値に変えていくために
――ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉 氏

ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉 氏

ミライロ 代表取締役社長
垣内 俊哉 氏

骨形成不全症という骨の病気で小学4年生から車いすでの生活を送ることになった垣内俊哉さん。自らの体験をもとに大学3年生のときに友人とユニバーサルデザインの総合コンサルティング会社ミライロを設立。「バリアバリュー」を企業理念に掲げ、障がい者や高齢者、LGBTQ+の方々、外国人など多様な人々が活躍できる社会の実現をめざし活動しているミライロ代表取締役社長の垣内さんに障がい者活躍の現状と課題について聞いた。

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――「バリアバリュー」とは何でしょうか。また、この考え方が生まれた背景をお聞かせください。

 「バリアバリュー」はバリア(障がい)をバリュー(価値)に変えていくという考え方です。人にはそれぞれ弱点や短所、苦手なことがあります。私の場合は骨形成不全症という骨の病気で歩くことができず車いすに乗っています。こうした障がいをマイナスととらえるのではなく、新しい強みや価値に置き換えることで社会での活躍や社会参画を促していこうという思いを「バリアバリュー」に込めています。

 この考え方が生まれたきっかけは、大学入学後に始めたアルバイト先での体験です。唯一雇ってくれたWeb制作会社で営業の仕事をしたのですが、車いすに乗っているので回れる件数も限られました。それでも足しげく通っているうちに覚えてもらい、結果につながりました。そのとき、社長から「歩けないことに胸を張れ。車いすに乗っていることは間違いなく君の強みだ」と言われました。障がいはマイナスでも克服すべきものでもなく、価値に変えることができると気づかせてもらいました。それまでは、歩けるようになりたい、普通になりたいという思いがずっと心の中にあり、手術やリハビリに励んだのですが、歩くことは叶わなかった。何かを変えなければいけないと思っていたなかでの出会いでしたから、本当に恵まれていたと思います。

――障がいを価値にしていくには何が必要だとお考えですか。障がい者側、企業側で必要な視点をそれぞれお教えください。

 日本では1940年代後半から障がい者に関するさまざまな制度ができ、法律も制定されて60年代頃から環境はかなりよくなっていきました。1970年の万博を機に大阪の地下鉄の駅で点字ブロックやエレベーターなどが整備され、関西、そして日本全国へと広がっていった。現在はインフラが整備され、障がい者が世界一外出しやすくなっているものの、多くの人や企業の対応が二極化しています。無関心か過剰のどちらか。なぜこのような偏りがあるのかというと、やはり知らないから、分からないからです。結果、障がい者と健常者のコミュニケーションがうまくとれず、企業では障がいのある社員への遠慮が生じて戦力になっていない。個々のポテンシャルを発揮するためには、配慮はしても遠慮はしてはいけないと思います。それぞれが相手の視点に立って考え、向き合うための知識と意識が必要です。

 障がい者もまず自分から歩み寄らなければいけない。助けてもらって当たり前、雇用されて当たり前という認識は取り払う必要があります。障がいを強みや価値に変えても、武器にしてはいけないという点を意識してほしいです。

――障がい者雇用における課題をどうとらえていますか。また、解決策として考えていることがありましたらお教えください。

 1974年に法定雇用率が義務化されて以降、障がい者雇用は着実に進んできています。働いている障がい者は1989年には19万5,000人しかいなかったのに対し、現在は64万人に増えています。ただし特例子会社制度という障がい者と健常者を分けて働かせる制度については、このままでいいのか議論しないといけない。重度の障がい者は特例子会社で働くのが適している場合もありますが、障がい者が人口の9.3 %を占める現状では、10人以上の組織に1人ぐらい障がい者がいてしかるべきでしょう。企業における障がい者雇用が人事や総務の役割となっており、営業や製造部門の人にとって自分事になっていないことが課題だと思います。解決策としてミライロで提案しているのがユニバーサルマナーの実践です。例えば困っている人を見かけたら、何に困っているのかを聞くことが大切。日本では先回りして気を遣うことがよし、とされていますが、一緒に働くうえで過剰な気遣いは戦力化を妨げることに繋がります。企業側はどんな仕事を担ってほしいのかはっきり伝え、障がい者は何ができないのか、どんな配慮が必要なのか具体的に伝える。当たり前のコミュニケーションをとることが重要です。

 また障がい者雇用について、「当社はバリアフリーではないから難しい」という話をよく聞きますが、1,165万人の障がい者のうち、施設のバリアフリーを必要とする車いすユーザー比率は1割を切っています。現状を具体的に知ることが自分事化への一歩だと考えています。

――多様な人材が活躍できる組織をつくることの価値をどのようにとらえていますか。

 変化の激しい時代、皆が同じ方向を向いて、同じ価値だけを提供する組織はリスクを抱えかねません。皆が同じタイミングで価値を発揮できなかったとしても、違う場面で価値を発揮できる可能性がある。そうした観点から組織を構成する人材に多様性を持たせることが、新しい価値創造やリスク分散につながっていきます。そのためにも障がい者はもちろん、女性、外国人などの活躍を通じてビジネスとしての柔軟性、しなやかさを保ちつつ、一人ひとりが価値を発揮できる風土を醸成していくことが肝要です。

――企業に向けたメッセージをお願いします。

 関西は日本のバリアフリー化をいち早く実現した先進地であり、世界から見ても間違いなくお手本になります。ハード面がある程度進んだからこそ、次に変えるべきはハートの部分です。私たち一人ひとりの意識、行動を変え、組織文化、企業風土を変えていくことがさまざまな人たちの価値発揮につながり、引いては企業のD&Iの実現にも寄与するでしょう。ぜひ一緒にユニバーサルマナーを学び、実践し、積極的に多様な人々と向き合っていただきたいと思います。

(参考)ユニバーサルマナー検定公式Webサイト:https://universal-manners.jp/