人事総務統括部 人事企画部 ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進チーム マネジャー
グレゴリー マクギリガン 氏
人事総務統括部 人事企画部 ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進チーム
山崎 彩恵 氏
パラスポーツ企画部 部長
大谷 忍 氏
2020年に「DE&Iビジョン」を策定し、グループ全体でグローバルにDE&Iに取り組む株式会社アシックス。DE&I推進を担当するグレゴリー マクギリガンさん、山崎 彩恵さん、パラスポーツを推進する大谷忍さんに、現在の取り組み状況や課題を聞いた。
――DE&I推進の基本的な考え方を教えてください。
山崎アシックスの創業理念は「健全な身体に健全な精神があれかし」です。これは、「世界中の人々に心身ともに健康で幸せな生活を実現してほしい」という私たちの願いを表しています。健康・幸せとひと口に言っても、個々人で異なり、画一的な何かがあるわけではありません。だからこそ実現には、多様性のあるチームが欠かせない。多様な価値観や視点を持つ人が集まり、チームを組むことで、創造的なアイデアが生まれます。それが結果的に、お客様に提供する商品やサービスにアウトプットとして生かされ、最終的には創業理念につながっていくと考えています。そこで、多様性のあるチームを作るために「One Team, Stronger Together.」というビジョンを掲げて取り組んでいます。
――グローバルでDE&I推進に取り組まれていますが、それぞれの地域でどのように進めているのでしょうか。また、地域ごとの違いや難しさがあれば教えてください。
山崎基本的にはグローバルでしっかり連携をとりながら進めています。日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国の4拠点のDE&I推進担当者が現地の事情を吸い上げたうえでアイデアを持ち寄り、グループ全体での方向性を整理。その後、各地域でアクションプランを作り、その国や地域の情勢にあった形で推進していきます。
マクギリガン国や社会情勢によって、DE&Iに関する理解レベル・運用レベルは異なります。例えば、障がい者雇用に関して、理解がある程度進んでいる国と、そうでない国では、ステップが異なってきます。社員の皆さんに基礎的な情報をシェアし、理解を促すところから始めている国もあれば、多様性を強みにするための施策に取り組んでいる国もあり、状況は様々です。一律にいかないところは難しさかもしれませんが、他地域の施策を水平展開することができる点は強みでもあると考えています。
――他社にはない、アシックス独自のDE&I推進に向けた取り組みがあれば教えてください。
山崎海外でのDE&I推進について、それぞれの国や地域に任せるというのではなく、グローバルで共通認識をもって取り組んでいるのは特徴の一つだと思います。
アシックスらしさという点では、パラアスリートの雇用が大きな特徴といえます。また女性活躍の観点では、3月の国際女性デーに合わせたランニングイベントの実施や女性向けのランニングウェアの開発、男女の運動格差についてのレポート発表などの取り組みも、当社らしいものといえそうです。
――特に障がい者の活躍に関して取り組んでいることを教えてください。
大谷東京パラリンピックをきっかけに、会社としてパラスポーツを強化する必要があるという認識が高まり、2022年1月にパラスポーツ企画部が発足しました。当社の2030年に向けてのビジョンである「誰もが一生涯、スポーツを通じて心も身体も健康でい続けられる社会の実現」を達成するため、私は、社内でパラスポーツ推進を牽引していく役目を担っています。
3つの柱があり、一つ目は、イノベーティブなプロダクト・商品の開発を、サポート役として進めること。当社は2023年に車いすバスケットボール選手の鳥海連志さんと所属契約を結び、商品開発において彼からアドバイスやフィードバックを受け、協力を得ています。鳥海選手は義足なので、義足を使っている人ならではの視点で履きやすさや脱ぎやすさへの細かなアドバイスをいただいています。将来皆が使ってみたいと思わせるカッコよさと履きやすさを両立したシューズに期待したいです。
二つ目の柱が、スポーツを通じて障がい者と健常者の垣根をなくすこと。パラリンピックなど国際イベントをうまく利用して、パラスポーツの活性化と、アシックスブランドの認知拡大を図ります。そのためにまず、社員にパラスポーツを「自分ごと」ととらえてもらうことが大切です。2024年5月に神戸で行われた世界パラ陸上では、国内のアシックスグループ社員全員、約2400名がボランティアや観戦など何らかの形で参加しました。ブラインドランナーやガイドランナーの体験会なども社内で実施しています。私もブラインドランナーを体験しましたが、へっぴり腰で歩くのが精いっぱい。実際に体験することでの気づきが製品開発など仕事にも生きてくると考えています。
三つ目の柱が、一人ひとりの尊厳が尊重される健全な社会の創出です。パリパラリンピックでは、難民選手団に選ばれたアスリート8人とガイドランナー2人、そのスタッフにオフィシャルスポーツウェア、シューズなどを提供しました。誰もが運動やスポーツに関わり、心と体が健康でいられる社会の実現に向け今後も取り組みを進めていきます。
――障がい者の雇用についてはいかがですか。一緒に働く上で工夫していること、難しい面などもあれば教えてください。
大谷人事部と連携して採用を行い、現在4名のパラアスリート社員が働いています。陸上、ブラインドサッカーなどの選手です。さまざまな部署で健常者と変わらず働いていただくのが基本です。競技への取り組みが業務の中心ではありますが、近年、アスリートの方もセカンドキャリアを考え、通常業務もしっかりやりたいという方が多く、例えば、午後3時まで人事部で働き、その後に競技といった働き方が多いです。
山崎採用段階でのマッチングが非常に重要です。できること、できないことの認識合わせをし、出張の多い部署が難しい場合は、社内で仕事ができる部署に配属するなど合理的な配慮をします。設備面などでどうしても対応できないこともありますが、ニーズを聞き出して担当部署につなぐなど、できるところから改善を続けています。
配属されてからは、上司の理解が重要です。2024年2月から管理職全員を対象に、障がいについての基礎理解を目的としたeラーニングを実施。その上で、実際に部下に障がい者がいる管理職を対象に研修を予定しており、そこではリアルな課題をぶつけてもらって解決していくことを考えています。
――DE&Iの取り組みの成果をどのようにとらえていますか。また、今後に向けた課題などがあれば教えてください。
山崎障害者雇用促進法での、民間企業の法定雇用率は2.5%です。当社では2024年7月時点で2.98%となり、取り組みの成果が出ていると思います。今後の採用目標としては、2026年までに4%を満たそうと考えており、しっかり雇用を進めていきます。「アシックスで働きたい」と思ってもらえるようにすることも、今後の課題の一つです。
意識の変化という面での成果も大きいです。全盲の方や車椅子の方が身近にいることで「このやり方では伝わりにくいのでは」「これは使いにくいのでは」といった気づきを得ています。多くの人にとって使いやすい、わかりやすいものとは何かを常に考える視点を与えてもらっています。
例えば、車椅子の方の妨げにならないように通路に物を置かないといった基本的なことから、意識が大きく変わっていると感じます。また、株主総会の通知では、車椅子利用者のための来場ルートを担当部署が自主的に案内するなどの変化も見られるようになりました。
大谷私の部署には全盲の社員が所属していますが、旅費交通費の精算システム一つとっても、現状は目が見えることを前提に設計されています。彼女は音声読み上げアプリを使って作業していますが、どうしても時間がかかります。多様な人の個性が尊重されるインクルージョンな組織実現には社内システムのリニューアルも考えていかないといけないですね。
――DE&I推進に向けて、今後特に力を入れていきたいことを教えてください。
山崎身体に障がいのある方といった目に見える部分での多様性を中心に取り組んできましたが、今後は「多様な考え方」にも力を入れていきたいと考えています。いろいろな経験を持つ方は、多様な考え方をお持ちです。そういう方に社内に入っていただいて活用し、インクルージョンすることに取り組んでいきます。
大谷一本の矢よりも三本の矢の方が強い。社外も含めて、DE&Iの考えを持つ同志、仲間を増やし、連携を強化していきたいですね。