1. Home
  2. Kansai D&I News
  3. 「厳しくとも働きがいのある会社」を実現女性活躍推進、健康経営施策を通じた社員エンゲージメント向上――伊藤忠商事
Kansai D&I News
2024.12.26 企業の取り組み最前線

「厳しくとも働きがいのある会社」を実現
女性活躍推進、健康経営施策を通じた社員エンゲージメント向上
――伊藤忠商事

人事・総務部長代行岩田憲司 氏

人事・総務部長代行
岩田 憲司 氏

人事・総務部 採用・人材マネジメント室 マネジャー(人材多様化推進) 高山 桃子 氏

人事・総務部 採用・人材マネジメント室
マネジャー(人材多様化推進)

高山 桃子 氏

人事・総務部 企画統轄室(兼) 採用・人材マネジメント室 小池 茜 氏

人事・総務部 企画統轄室(兼)
採用・人材マネジメント室

小池 茜 氏

人事制度改革、女性活躍推進、働き方改革など早くから働きがいのある組織づくりにチャレンジしてきた伊藤忠商事。2020年に「女性が輝く先進企業 内閣府特命担当大臣表彰」、2024年には「なでしこ銘柄」と「健康経営銘柄」をダブル受賞するなど、すべての社員が能力を最大限発揮できる環境づくりに取り組んでいる。人事・総務部長代行の岩田憲司さん、高山桃子さん、小池茜さんに、健康で誰もが活躍し続けられる組織づくりについて聞いた。

イメージ画像

――早くから働きがいのある組織づくりに取り組まれており、1999年には人事制度を改革し、チャレンジを行っていたとお聞きしています。取り組みを進めるなかで難しかった点や失敗事例があればお聞かせください。

 1999年の人事制度改革は当時の経営危機を打開するためのものでした。当時の評価・給与体系は、長く働いていれば能力が上がることを前提とした年功序列が基本でした。制度改革にあたり、職務・職責に基づく給与体系や業績連動型の報奨制度を導入し、頑張った人が評価される会社を目指したのです。

 女性活躍推進においても、全ての社員が労働生産性を持続的に高めていくことを主眼に置き、「組織としての多様性が重要であり、特に女性の活躍は不可欠」との一貫した考えのもと、20年前から取り組みを進めてきました。他社に先駆けて女性総合職数の拡大や制度の整備を進め、女性社員数は一定数まで増加。育児・介護との両立支援制度が整ったものの、現場の受入環境が整っていない中で、現場の状況を十分考慮せず全部署に一律配属したことから、結果的に早期離職に繋がるケースが発生しました。また、「働きやすい環境」の実現に向けて導入した配偶者の海外休職転勤制度は、育児休業との連続利用により長期のキャリアブランクを生む結果となり、当初想定していた女性の「キャリア継続支援」の形とはなりませんでした。その後、現場の声を踏まえ、一律ではない「個別支援」に力を入れてきました。

 これらの教訓を踏まえて軌道修正し、2010年から働き方改革に着手しました。2013年には、20時以降の残業を禁止し、早朝勤務を推奨する「朝型勤務」を導入しました。会社の本気度を示すため、早朝勤務に対するインセンティブ(割増賃金、軽食配布)も制度に織り込んだことで、残業体質であった各組織での働き方は大きく変わり、女性社員の活躍を後押ししキャリアを諦めずに働き続ける環境整備に繋がりました。現在は男女ともにエンゲージメントと仕事の能力を高めることにポイントを置き、「厳しくとも働きがいのある会社」を目指し、施策に取り組んでいます。

伊藤忠商事の約20年におよぶ女性活躍推進の変遷

イメージ画像

https://www.itochu.co.jp/ja/about/work_style/case03/index.html

――D&Iを進めるうえでの基本的な考え方をお聞かせください。

 当社の社員数は他大手商社の7~8割程度。D&Iを進めるうえで大前提となるのが「労働生産性の向上」です。そのためには一人ひとりが能力を最大限発揮できる環境づくりが必要です。働きがいだけでなく社員に成果を求めること、その成果を還元することが重要と考え、効率性の追求、社員のモチベーション向上、社員の能力開発、健康経営などを推進しています。

 D&Iを進める上で大事なことは、トップダウンで一方的に進めるのではなく現場を巻き込むこと。女性活躍推進に関しては、女性社員だけでなく男性社員を巻き込んだ取り組みに注力しています。例えば、子育てをしながらキャリアを継続していくことは、共働き・共育ての観点から男女問わず必要な視点です。自分事としてとらえてもらうため、全社員に向け研修を実施し、2024年4月からは男性育休取得を「必須化」するなどの施策を展開しています。

――2016年から社員が安心して働き続けられる組織づくりに取り組んでいらっしゃいますが、特徴的な事例をお教えください。

 労働生産性を向上させていくには、社員一人ひとりが健康であることが最も大切であるとの考えから、健康経営の取り組みに力を入れています。

 2017年から導入しているのが、がんと仕事の両立支援策です。がんで闘病中の社員から岡藤社長(当時)宛に、会社の支援や職場の人たちの励ましに対する感謝のメールが届き、心を強く打たれた社長が伊藤忠商事を「日本一良い会社」にすると決意したことが導入のきっかけです。国立がん研究センターと提携し、40歳から5年ごとのがん特別健診を義務付け、治療が必要になった場合は同センターで治療が受けられ、費用は会社が負担。万が一、社員が亡くなってしまった場合は、残された子どもへの育英資金を大学院卒業まで支給するという手厚い内容となっています。2023年度は94%の対象社員ががん特別健診を受け、がんの早期発見・早期治療につながっています。

 また、健康経営の重要施策として2013年より導入している朝型勤務とも親和性のある「睡眠」に注力しています。当社は、2022年に睡眠マネジメントに関するコンソーシアム「Sleep Innovation Platform®」に参画し、西川株式会社と共に活動しています。2023年には国内勤務社員を対象に「nishikawaの睡眠改善プログラム」を試験的に実施し、希望した736名の社員が参加しました。質問票による睡眠実態調査で59%の社員が不眠傾向や睡眠時無呼吸症候群(SAS)傾向などの睡眠課題があるとの結果となり、さらに、睡眠時脳波測定および血中酸素ウェルネス測定を受けた357名のうち24%にSASの高いリスクが認められました。睡眠の質を改善するコンサルティングサービスやサプリの提供を通して、生活習慣や生活環境の改善に向けた行動を推奨しています。今年度も同プログラムを実施し、特に睡眠時無呼吸症候群の課題解決に取り組んでいます。

イメージ画像

――これまでの取り組みの成果と今後に向けた課題などがあれば教えてください。

 「厳しくとも働きがいのある会社」を目指すという方針で朝型勤務の導入や健康経営に取り組んできた結果、労働生産性が高い組織、文化が定着してきました。課題はこの文化を維持、改善していくことです。社員の労働生産性を高め、企業価値を向上させることと、社員エンゲージメントのバランスをどう取っていくかが大きな課題です。

――ダイバーシティ推進に関し、今後特に取り組んでいきたいことを教えてください。

 ダイバーシティ推進に向けた3つの項目、男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業のうち、2023年度の男性育休取得率は50%以上、今年度より100%を目指すまで浸透しています。男女間賃金格差の解消と女性の管理職比率向上は関連しており、根本的な取り組みが必要です。当社では2024年4月に新たに5人の女性執行役員を登用し、全役員に占める女性比率は21%になりました。現在2030年までに「女性役員比率30%以上」を掲げています。

 もう一つは男性も巻き込んで健康経営の取り組みを適切に進めていくことです。多様化する女性特有の健康課題に対応し、生産性向上や周囲の理解促進を図るべくフェムテックを活用しています。生理や不妊治療をテーマにすると男性は関係ないと思いがちですが、社員が最大限能力発揮できる風土醸成に関わる事であり、男性が他人事ととらえていては進みません。男性も悩む更年期対策に取り組み、すべての世代に浸透させていきたいと考えています。