
SCSK 執行役員 人事分掌役員補佐
河辺 恵理 氏
「すべての人材がその能力を最大限発揮できる働きやすい、働きがいのある会社」を目指してさまざまな施策を展開し、「なでしこ銘柄」に9回選定されるなど、外部からも高い評価を受けているSCSK。執行役員 人事分掌役員補佐の河辺さんに、DEI推進の具体的な取り組みやその背景を聞いた。

――DEI推進の基本的な考え方をお聞かせください。
当社の生業であるITサービスは、人が価値を創出するビジネスです。人が財産であり、社員全員の健康と成長が事業発展の礎という考え方が、企業経営の根底にあります。多様な人材がその能力を最大限発揮できる職場環境の整備や、企業風土醸成を目的に、さまざまなDEIの取り組みを進めてきました。女性活躍推進はもちろん、あらゆる人材の能力と価値を最大化することが、持続的な企業価値の向上につながると考えています。
――DEIのなかで、他社にはない貴社独自の取り組みがあれば教えてください。
入社後10年で女性の70%が退職していることへの危機感を背景に、2006年に社長をリーダーとした「女性活躍プロジェクト」を発足させました。勤務の柔軟化や仕事と育児の両立支援、産休・育休後の職場復帰支援プログラムなどを進め、2011年には、入社後10年の女性離職率が男性と同じ30%にまで低下しました。
男性の育児参加が当たり前という風土づくりは、女性が活躍するためにも非常に重要です。仕事と育児の両立を支援する施策としては、配偶者出産休暇など男性を対象としたものもあり、当社の男性の育児休業・休暇取得率は93.8%まで上昇しました。
男性の育児参加を可能にした背景には、2012年に着手した働き方改革があります。IT業界全体の課題でもあった長時間労働を改善するため、「スマートワーク・チャレンジ」として、残業は月20時間以下にとどめる、有給は20日を100%消化するという働き方に、3年間かけてシフトしていきました。当初は現場から、「お客様がいる手前、休めない」という声も多く上がりました。しかし、社員の健康を守るために必要な取り組みだということを、社長がお客様に手紙を書いて伝え、役員が説明に伺うなどして、お客様にもご理解いただきました。こうした取り組みによって、当社の社員にもトップの本気度が伝わったようです。
お客様がいる中、業績を上げながら働き方を変えるのは、簡単なことではありません。しかし、まずは役職者自らが推進役となり働き方を変えることで、改革が進んでいきました。例えば、一つの仕事を一人に任せず、必ず複数人で担当し、交代で休めるようにするなど、チームや組織で取り組むといったことも重要な点でした。
働き方改革と同時期に、女性のキャリア停滞課題に働きかける女性活躍推進プログラムもスタートしました。まずは女性ライン職育成および登用からスタートし、現在は女性活躍の目的をあらため、「経営の意思決定の場における多様性を高めること」とし、役員級、部長級の育成プログラムを実施しています。女性管理職登用の目標数を設定し、上長自らが育成責任者(メンター)となって進める育成プログラムを導入しました。
また、当社は多様なキャリア志向を尊重する複線型の人事制度を導入しています。技術者としての専門性についてレベル1〜7という評価制度を設けて認定を行い、当社だけでなく、業界をもリードし、価値を創出できる人材の育成を目指すものです。女性の技術者においては、レベル5以上の高度人材の育成目標も設定しています。
――取り組みを進めたことで、社内外からどのような反響がありましたか。また、取り組みによって変化したことがあれば教えてください。
当社はBtoB企業であり、一般的な知名度が低いため、採用活動などにおける認知度向上が大きな課題でした。しかし、「健康経営銘柄」に10年連続選定され、「なでしこ銘柄」にも9回選定されるなど、社外から高い評価を受けたことで、注目される機会が増えました。その結果、認知度は大幅に向上し、女性も含め、優秀な人材の獲得にもつながっています。
また、これまでの取り組みによって社内にはDEIを推進する意識が根付いてきました。一方で、社員にとってはその取り組みが当たり前のものになりつつある側面もあります。そうしたなかで、社外からの評価を受けることで、改めて自社のよさや価値を再認識する機会にもなっています。
――これまでの取り組みの成果や今後の課題について教えてください。
女性役職者の計画的な育成・登用を目指して実施してきた「役職者育成プログラム」により、2019年には女性課長100名という目標を達成しました。
しかし、より上位の役職への継続的な登用は、依然として課題の一つです。部長級の女性は10名から32名へと大幅に増えたものの、当社の年代別人口構成を考慮すると、役職者の候補となる45歳以上の女性の比率が低いため、さらに女性役職者を増やすことは容易ではないという危機感を持っています。
こうした課題に対応するため、2022年度以降、新たに「サポーター制度」および「サポータープラス制度」を導入しました。これにより、課長級のみならず、部長級・役員級の計画的な育成と積極的な登用を進めています。
――DEI推進に向けて、今後特に力を入れていきたいことを教えてください。
社員の意識調査で、9割の社員が「働きやすい」と回答したものの、「働きがい」を感じると回答した社員は7割程度。こうした状況を踏まえ、働き方改革などにより早くから整備してきた働きやすい環境に加え、より「働きがい」を実感できるWell-Being経営を推進しています。2024年度からは、「働きやすさ」と「働きがい」の実感値を測定する独自指標「SCSK Well-Being Score」を導入し、「健康」「働き方」「DEI」「キャリア」「組織」「やりがい」「未来創造」の7つの価値観と25の指標で、社員の実感値を可視化しています。その結果をもとに、各組織で自分たちの課題を議論し、Well-Being向上活動にも取り組んでもらっています。DEIの領域では、今年度からD&IにEquityとBelongingの要素を加え、社員が自らの居場所として安心して力を発揮できる組織風土醸成に取り組むべく、DEIBへと概念を進化させました。社員が安心して力を発揮できる組織風土を醸成するため、「公平・公正」「共に働く」という観点での取り組みも検討・実施していきます。
すべての社員がWell-Beingであることが、当社が目指す価値創出の原動力になると考えています。また、価値創出の実感が、さらなるエンゲージメントの向上と社員のWell-Being経営の実践につながる好循環を目指し、今後も取り組みを進めてまいります。
