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Kansai D&I News
2025.2.27 What’s new

仕事と介護の両立について~法改正に関する企業の対応のポイント~
――特定社会保険労務士 八木 裕之

育児・介護休業法の改正

 育児・介護休業法が改正され、2025年4月から段階的に施行されます。本稿では、そのうち介護支援に関連して企業に求められる対応を考えます。

 今年2025年は、戦後のベビーブーマーである「団塊の世代」が75歳以上となり、今後介護を必要とする人が増加すると予測されています。

 今回の法改正の趣旨は、「仕事と介護の両立支援を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、仕事と介護の両立支援の個別周知と意向確認により効果的な周知が図られるとともに、両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備を行うことが必要である」(厚生労働省「令和6年法改正の概要」)というものです。

改正内容の概要と必要な対応

(1)介護休暇を利用できる労働者の要件緩和

改正内容 施行前 施行後
労使協定による継続雇用期間6か月未満除外規定の廃止 〈除外できる労働者〉
  • ①週の所定労働日数が2日以下
  • ②継続雇用期間6か月未満
    〈除外できる労働者〉
  • ①週の所定労働日数が2日以下
  • ※②を撤廃

 勤続期間が6か月未満の労働者を介護休暇の対象外としている会社は、その部分の削除をする労使協定、就業規則の改定が必要です。

(2)離職防止のための雇用環境の整備

 介護休業や介護両立支援制度等(※)の申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下①~④のいずれかの 措置を講じなければなりません。

  • ①介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
  • ②介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  • ③自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
  • ④自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知

※ⅰ介護休暇に関する制度、ⅱ所定外労働の制限に関する制度、ⅲ 時間外労働の制限に関する制度、ⅳ 深夜業の制限に関する制度、ⅴ介護のための所定労働時間の短縮等の措置

*①~④のうち複数の措置を講じることが望ましい

 本制度は2021年法改正で育児との両立のために義務化されているものですので、それにならう形で実施することになります。「研修」については少なくとも管理職には必ず受けてもらう必要がありますが、厚生労働省から研修用の資料や動画が公開されていますので、ご活用ください。

厚生労働省「仕事と介護の両立支援 ~両立に向けての具体的ツール~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html

(3)介護離職防止のための個別の周知・意向確認

介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認

 介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項の周知と介護休業 の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。

※取得・利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。

周知事項
  • ①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
  • ②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など)
  • ③介護休業給付金に関すること
個別周知・
意向確認の方法
  • ①面談
  • ②書面交付
  • ③FAX
  • ④電子メール等
    のいずれか
 注:①はオンライン面談も可能。③④は労働者が希望した場合のみ

 こちらも育児では先行して義務化されていますので、それを踏襲することになります。

 個別周知・意向確認、情報提供、事例紹介、制度・方針周知ポスター例については、厚生労働省が書式を提供していますので、自社用にアレンジするなどしてご活用ください。

厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html

介護に直面する前の早い段階(40歳等)での情報提供

 労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を深めるため、事業主 は介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供しなければなりません。

情報提供期間
  • ①労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)
  • ②労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間のいずれか
情報提供事項
  • ①介護休業に関する制度、介護両立支援制度等(制度の内容)
  • ②介護休業・介護両立支援制度等の申出先(例:人事部など)
  • ③介護休業給付金に関すること
情報提供の方法
  • ①面談
  • ②書面交付
  • ③FAX
  • ④電子メール等
    のいずれか
 注:①はオンライン面談も可能。

*情報提供に当たって、「介護休業制度」は介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応する ものなど、各種制度の趣旨・目的を踏まえて行うこと

*情報提供の際に、併せて介護保険制度について周知することが望ましい

 40歳というのは、介護保険の被保険者になる年齢ということで設定されているようですが、若くして家族の介護を担っている「ヤングケアラー」も存在することからあくまで目安ととらえてもよいかと思います。

厚生労働省「介護保険制度について(40歳の方向けリーフレット)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10548.html

(4)介護のためのテレワーク導入(努力義務)

 要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。

 こちらは「努力義務」ですが、制度として導入する場合は、(3)の両立支援の制度説明に盛り込み、併せて就業規則に「テレワークの対象者」として「介護のため出社しての業務が困難な者」等の規定を設けることが必要です。

介護問題の多様性に対応した両立支援

 介護休業等の仕事と介護の両立支援に関する制度は、1995年に育児休業法に介護に関する規定が追加され、育児・介護休業法となって企業に義務付けられました。

 「育児」・「介護」と併記されていますが、この2つは求められる支援制度の性格が大きく異なっています。育児では、子供は片時も目が離せないので、世話をする時間をしっかりと確保する必要があるのに対し、介護はいつ始まり、いつ終わるかもわからない状況の中で、なるべく仕事をしながら対応していく必要があります。介護休業は「介護の体制を構築するために一定期間休業する場合に対応するもの」と位置付けられています。

 労働政策研究・研修機構の池田心豪氏は、今までの育児・介護休業法は、介護の場面を具体的に想定して、その場面にフィットするようにいろいろな制度をつくってきた。想定する介護の場面が違うと、それに対応する両立支援制度も違うと指摘します。

育児・介護休業法が定める両立支援制度とその想定
図表1

出所:池田心豪「育児・介護休業法と両立支援ニーズ~多様な介護問題に対応可能な制度に向けて」
労働政策研究・研修機構 『ビジネス・レーバー・トレンド2024年5月号』

 しかし、当事者が実際に必要としているものが必ずしも制度や法律の規定と一致しない部分があるといいます。たとえば、介護休業が想定するような連続休暇は約6割の人が「必要ない」と回答しています(労働政策研究・研修機構「家族の介護と就業に関する調査」2019年)。

 そこで、池田氏は、介護休暇の日数を増やす、休業の分割回数を増やすといった対応の方が現実的なニーズに応えられるのではないか、また、短時間勤務は今の制度の想定を超えたところで、より広い範囲の介護問題に対応し得るポテンシャルがあるといいます。

 現行法の短時間勤務は、フレックスタイムや時差出勤と同じ並びで選択的措置義務となっています。短時間勤務は、介護者の健康問題や、介護をめぐる人間関係の問題などから発生する介護負担に対して、介護離職のリスクを回避し得る可能性があると指摘しています。

 介護のニーズは、要介護者が施設に入居しているか否か、遠隔地に居住しているか否かなどの条件によって一様ではありませんが、企業としては「勤務時間短縮等の措置」のなかでは、「短時間勤務制度」を選択するのも仕事と介護の両立支援として有効な手段と言えそうです。

【引用・参考文献】
池田心豪『仕事と介護の両立』中央経済社 2021年
川嶋英明「改正育児・介護休業法 企業に求められる介護支援」ビジネスガイド 2024.9 No.949
厚生労働省パンフレット「育児・介護休業法 改正のポイントのご案内」