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Kansai D&I News
2025.4.28 オピニオン

チャレンジしたくなる組織づくりで次世代を育む
――日本新薬 取締役 木村 ひとみ 氏

日本新薬 取締役 木村 ひとみ 氏

日本新薬 取締役
木村 ひとみ 氏

2021年、日本新薬で初の女性取締役に就任した木村ひとみさん。1984年の入社以来、薬事部長、信頼性保証統括部長(総括製造販売責任者)などを務め、業界団体の活動にも関わってきた。木村さんに、これまでのキャリアやD&Iに関する考えについて聞いた。

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――これまでのキャリアの中で、特にターニングポイントとなったできごとを3つ挙げていただけますか。そのできごとが現在のご自身にどのような影響を与えたのかも、ぜひお聞かせください。

 若い頃、薬事申請の許認可関連の手続きを担当する部署に異動したことが、最初の大きな転機でした。一見地味に思われがちな部署でしたが、私にとっては新鮮で、とても面白い仕事でした。さまざまな手続きを通じて、社内の他部署の方々と関わる機会が増え、顔を覚えてもらえたことが、その後のキャリアにもつながっています。

 次の転機は、薬事関連の大きな法改正への対応に携わったことです。それまで製造現場に入った経験がなかったため、医薬品の製造方法や品質管理について一から学ぶ必要がありましたが、社内外の関係者にサポートしていただいたおかげで知識を深めることができました。また、海外の協力会社とも連携する必要があったため、海外メーカーとやり取りをしたり工場を訪問したことなども貴重な経験になりました。顔を突き合わせて直接対話する中で、強い信頼関係を築くことができたのは大きな収穫でした。

 3つ目の転機は、業界団体の活動に関わったことです。薬事法規に関して、他の製薬会社さんと情報を共有し、業界として意見をまとめて国に提言する役割を担いました。関西の委員長を2年間務めましたが、最初は自信がなく、お引き受けするのをためらったほどです。しかし、実際にやってみると、多くの学びがあり、本当に貴重な経験でした。厚生労働省の担当官をはじめ、さまざまな方と議論を交わし、人前で話す機会を得たことで、視野が広がりました。また、自分の名前を覚えていただくきっかけにもなりました。

 この3つのできごとは、いずれも私にとって大きな成長の機会となりました。決して楽な道のりではありませんでしたが、それぞれの経験を通じて得た知見やスキルは、今の私の財産です。多くの方々と意見を交わし、交渉を重ねる中で、信頼関係を築くことができたことも、現在のキャリアにつながっていると実感しています。

――キャリアを通じて大切にしている考えや信念について教えてください。

 もともとお世話好きな性格で、「だれかの役に立てたらうれしい」と思うタイプです。大きなことではなくても、相手が困っているときは何とか解決したいと思いますし、直接的に手助けできない場合でも、解決策を提案し、相手にとって最適な方法を示すことを常に心がけています。「こういう方法もあるのでは?」と提案し、皆が前に進む手助けができれば嬉しく感じます。人の役に立ちたいという気持ちは、いつも大切にしています。

 業界団体での活動を通じて、他社の先輩方から多くを学びました。質問に対して直接答えていただくだけでなく、「この本のここに情報が載っているから見てごらん」といった形でアドバイスをいただくこともありました。私自身は部下に対して、まず自分が見本を示すようにしてきました。やり方は示しつつも、最終的には自分で考えることが大切だと思っています。仕事でやり直しが発生したときも、ただ言われた通りに直すのではなく、わからない部分は確認し、何が問題だったのかを自分で考えることができる人が成長すると思っています。

――多様性を活かした組織を実現するために、マネジメントの面で意識していることや心がけていることはありますか。

 例えば、他部署から新しい人が異動してきた際、「この部署のやり方に合わせて」というのではなく、その人が部署に染まってしまわないように配慮することが大切だと思っています。新しく入った人が違和感を覚えるようなことがあれば、それを課題として検討し、対応していくことがあります。元々のやり方を変えるのは難しいこともありますが、新しい視点や方法を柔軟に取り入れられる組織であることが重要だと感じます。

 女性がマイノリティとして働く大変さについてよく質問されますが、私は男性も女性も同じ仕事に取り組む仲間だという意識で働いてきたので、特に困難に感じたことはありませんでした。昔は「女性だから昇進が遅い」といった話もあったと聞きます。当社もかつては経歴や思考が似た人ばかりの組織だったかもしれません。しかし、似たような考え方の人ばかりだと、問題解決のアイデアも限られてしまいます。多様性という観点からは、女性の登用だけでなく、海外からの採用も組織の活性化につながると思います。異動はチャンスです。新しい自分を見つける機会になり、受け入れる部署にも新しい視点をもたらし、次のチャレンジへとつながると考えています。

――今後、特に木村さまご自身が力を入れていきたいことについてお聞かせください。

 チャレンジには大変さが伴い、大変そうに見えることは通常、避けたいと思うものです。それでも「チャレンジしたい」と思えるような文化を作っていきたいと考えています。何かに取り組めば、たとえ失敗しても必ず得られるものがあります。もちろん、組織や仕事が大きくなると、「失敗してもいい」と簡単には言えない場面もありますが、仕事を続ける中で、特に若い人たちには、目の前の小さなことを積み重ねる経験が大切な時期があると思います。その過程で、小さなことでもチャレンジすることで、自分に何かが身に付くことを学んでほしい。日々の業務の中で何が重要かを見極め、より大きな仕事に取り組むことが理想です。そのためには、皆がチャレンジしたいと思える文化を醸成していきたいと考えています。

――働く女性やD&I推進に携わる方へ、メッセージをお願いします。

 結婚し、家事や子育てをしながら仕事を続けるのは大変かもしれませんが、それでもチャレンジすれば見えてくるものが変わってくると思います。一つの頂に登ることで、それまでとは違う広い景色が見え、次の頂も見えてくるはずです。頑張ったことはすべて自分の財産となり、また次の挑戦に向けて前向きになれるでしょう。

 気持ちの切り替えも大切です。リラックスしているときに、多くの良いアイデアが生まれます。仕事で悩んでいるときも、悩みすぎずに切り替えて、チャレンジし続けてほしいと思います。