
ダイバーシティ推進室 室長
島 安姫 氏

ダイバーシティ推進室 課長代理
塚本 紀子 氏

ダイバーシティ推進室 主任
森澤 史 氏
2021年にダイバーシティ推進室を新設し、「ダイバーシティ・カウンシル」とという仕組みを通じてD&Iを推進している上新電機。ダイバーシティ推進室の島 安姫さん、塚本 紀子さん、森澤 史さんに、取り組みの背景や成果、今後の展望について話を聞いた。

――D&I推進のきっかけをお聞かせください。
島2021年にダイバーシティ推進室を新設しました。経営トップからは「多様性を企業の成長に生かし、従業員の働きがいを高めるため、本気でダイバーシティに取り組みたい」という方針が示され、それを受けてD&I推進をスタートしました。働きがいを高めることが私たちの業務であり、とても幸せなミッションだと感じています。
――D&Iを推進するにあたって、基本的な考え方をお聞かせください。
島ジョーシングループのD&Iポリシーとして、「従業員の一人ひとりが、笑顔で活き活きと活躍することがなにより大切である」と宣言しています。D&I推進によってめざす姿は、すべての従業員の活躍と、企業としての持続的な成長です。多様なメンバーが笑顔で働ける環境を整え、価値観や個性を大切にしながら、個の力を企業の力につなげていく。そのために、働きがいと働きやすさの実現に取り組み、従業員エンゲージメントの向上をお客さま満足や企業価値の向上につなげていく考えです。
変化の激しい時代に、多方面にアンテナを立てて生き残るためには、従来のやり方を踏襲するだけでなく、多様な視点が必要です。組織内での興味や関心がさまざまな方向に向いていることで、リスクをとらえて回避したり、チャンスをつかんだりすることができます。だからこそ、私たちは多様性の確保が企業の成長につながると考えています。
――貴社の特徴的な取り組みである「ダイバーシティ・カウンシル」設置のきっかけや、具体的な取り組みについてお聞かせください。
島D&Iを浸透させるには、トップからの強いメッセージが大切ですが、それと同時に各現場の当事者が持つニーズをキャッチすることが欠かせません。 そのため、「ダイバーシティ・カウンシル」を従業員が意見発信できる場にしたいと考えました。私は子育てしながら働いてきましたが、社会の目は育児者のキャリアには向いていないと感じていました。例えば、地域限定正社員制度は転勤せずに働ける制度である一方、昇格等に制限があります。多様な人財がそれぞれに合った働き方で活躍するためには、従業員の意見を収集することが重要です。(上新電機では、2023年10月に勤務選択による昇格制限を撤廃)
ダイバーシティ・カウンシルは、4つのパートからなります。1つ目は、全従業員からアンケートで意見を聞く「全社Webアンケート」。2つ目は、育児・女性活躍・ケア(介護)など、それぞれの当事者が部署を越えてつながり、当事者としての意見を発信するための「社内コミュニティ」。3つ目は、制度改革のための具体的検討を行う「分科会」。4つ目は、各テーマについて議論して会社の施策としてまとめる委員会である「カウンシル」です。

4つのパートで構成される仕組み「ダイバーシティ・カウンシル」
4つ目のパートであるカウンシルは、年代・属性・職種・勤務エリア・男女比などの多様性を考慮した、上新電機の縮図となるような20名のメンバーで構成し、月1回オンライン会議を行っています(経営層もオブザーブ参加)。議論をもとに、希望者への旧姓対応の開始、育児短時間勤務制度の柔軟化、勤務地選択による昇格制限の撤廃などの施策がこれまで実現しています。

月に1回開催しているオンライン会議
――取り組みを進める中で、特に大変だったことはありますか。
島D&Iは新しい取り組みであるため、形にするためのルートづくりが最も苦労した点です。どのような権限のもと、どのように制度や仕組みを作り上げていくのかを模索し、「ダイバーシティ・カウンシル」という仕組みを通じて従業員の意見を会社の施策に反映する形を取っています。また、「D&I推進ロードマップ」を作成し、社内外にテーマを公表しながら取り組むスタイルをつくりました。
また、他社の事例や最新の動向も積極的に学び、参考にしてきました。営業ノウハウであれば他社と共有するのは難しいですが、D&Iに関する悩みは共通する部分が多く、先進企業の方々にいろいろと教えていただきました。本当にありがたかったです。
塚本私は育児短時間勤務のため、時間管理が難しく、やりたいことが常に山積みの状態です。以前採用や教育を担当していたこともあり、社員一人ひとりの顔が見えています。D&Iを推進し、制度が変わることで、どの社員が働きやすくなるのかを具体的にイメージすることができます。その社員の顔を思い浮かべることが、自分の原動力になっています。
――これまでの取り組みを通じて、社内外からどのような反響がありましたか。また、社内の変化などがあれば教えてください。
塚本社内コミュニティを通じた意見発信ができるようになり、社員にとって、会社の施策が「自分ごと化」されたと感じます。会社の施策は自分たちと関係ないところで決まるのではなく、自分たちの声を反映したものが実現する可能性があるという実感が持てるようになったのではないでしょうか。会社の制度への要望を、主体的に自分たちで発信していく姿勢が見られるようになりました。
森澤私は、本社社屋勤務の小学生以下のお子さんを持つ従業員を対象に、会社に家族を招くイベント「ファミリーデー」の企画を担当しました。社内で子育ての風土を醸成することが目的の一つで、参加者からは「子どもと仕事についての会話が生まれた」「親の仕事を理解してくれた」などの声が聞かれました。普段以上に従業員同士が笑顔で交流する姿も見られ、人それぞれに多様な価値観があることを、実体験として感じられたのではないかと思います。従業員同士がお子さんの顔を知ることで、お互いの働き方を気遣うといったことも期待されます。
――これまでの取り組みの成果と今後に向けた課題などがあれば教えてください。
島成果の一つは、育児短時間勤務制度の柔軟化です。これまでは子どもが小学校を卒業するまで利用できる制度でしたが、過去30年間で、小学校卒業後にフルタイム勤務へ戻った営業店勤務者がわずかしかいなかったという実態がありました。こうした状況を踏まえ、制度を見直し、中学校卒業まで利用できるよう改定しました。
また、前述の勤務地選択による昇格制限の撤廃も大きな成果です。協議委員会のカウンシルで「転勤の可否と能力は関係ない」という議論がなされ、その結果、制度改定に至りました。
これらの取り組みも功を奏し、子育てサポート企業として「くるみん」、女性活躍推進企業として「えるぼし」(認定段階2)の認定を取得することもできました。
一方、課題もまだ多くあります。賃金、管理職比率などにおいて男女差が見られるため、これらを改善し、より公平な環境を整えていくことが重要です。また、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込みや偏見)に関する教育を通じて、意識改革にも継続的に取り組んでいかなければなりません。

――D&I推進に向けて、今後特に力を入れていきたいことを教えてください。
島これまで、比較的取り組むべき課題が明確だった女性活躍の推進から進めてきましたが、まだ着手できていない分野も多くあります。従業員のライフスタイルはさまざまで、結婚・出産を選ばない人や、昇進を希望しない人もいますし、管理職になることだけがキャリアの成功ではありません。より多様な視点を取り入れながら、D&Iの取り組みをさらに深めていきたいと考えています。
また、小売業特有の労働環境の中でも、長時間労働を前提としない働き方や意識改革を進めていく必要があります。
すべての課題を一度に解決することは難しいですが、まずは現場の声を丁寧に拾い上げ、「今進められること」を一つずつ形にしていくことが、私たちの役割だと考えています。また、協議委員会のカウンシルを経験したメンバーを増やしていき、D&Iの視点をそれぞれの現場に浸透させていきたいです。D&I推進はダイバーシティ推進室だけが担うものではなく、全社的に「D&Iの視点を持つ仲間」を増やしていくことが重要だと考えています。