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Kansai D&I News
2025.11.28 企業の取り組み最前線

「得意の創出」で障がいの種類に関わらず活躍できる職場づくり
――江崎グリコ

江崎グリコグループ人事部 人事戦略グループ スマイルファクトリー統括責任者 島内 透 氏

江崎グリコグループ人事部 人事戦略グループ
スマイルファクトリー統括責任者

島内 透 氏

GlicoグループではD&I推進の施策の一つとして、多様な人材が活躍できる取り組みを行っており、2018年に障がいのある社員が活躍できる「スマイルファクトリー」を開設した。人事戦略グループに所属し、スマイルファクトリーの統括責任者でもある島内透さんに、障がいのある社員の活躍への取り組みについて話を聞いた。

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――D&Iを推進するにあたって、スマイルファクトリーはどのような位置づけにありますか?

 Glicoグループでは、人を資本としてとらえ、多様な人材が適材適所で活躍できるようさまざまな施策を行っています。その一つとして、障がいのある人が、障がいの種類にかかわらず活躍できる職場をめざし開設したのが「スマイルファクトリー」です。もともと江崎グリコでは身体障がいの方を中心に障がい者雇用が進んでいましたが、その他のさまざまな種類の障がいを持つ方も活躍できる場が必要だということでスマイルファクトリーが設立されました。

 ここでは「苦手の克服」ではなく「得意の創出」に焦点を当て、誰もが仕事で力を発揮できる状態を作ろうとしています。これは障がいのある社員に限らず、どんな人材を受け入れる場合にも通じる考え方です。その意味でスマイルファクトリーの存在は、会社としてD&Iを推進し、多様な人材を受け入れて活躍できる土壌づくりとしての意義もあると考えています。

――スマイルファクトリーでの具体的な業務内容をお教えください。

 当初はラベル貼りの作業が中心でした。しかし、障がいの特性によって、ラベル貼りが苦手な人、得意な人がいる中で、なんとなく「優劣」の感覚が生まれてしまいます。そこで「障がいの種類にかかわらず活躍できる職場をめざす」という基本に立ち返り、苦手なことを克服してもらおうとするのではなく、得意の創出に目を向けました。例えば、同じ作業を長時間続けることが苦にならないといった特性に合う仕事をアサインすれば、その業務においてはとても優秀な人材になります。得意な作業で活躍してもらえるよう、あちこちの部署に声をかけ、いろいろな種類の仕事を引き受けるようになりました。通販ギフトの包装などもその一つです。仕事の質が高いので次の仕事につながり、メンバー自らの努力が新しい仕事を生み出しています。

――障がいのある社員の「得意の創出」を実現し、長く働いてもらうために行っていることをお教えください。

 障がいを持つメンバーと、社員を中心とする管理スタッフがタッグを組んで仕事を進めています。どの仕事をするかについては、まずはメンバーの「やりたい」という気持ちを大事にした上で、できるかどうかを管理スタッフが見極めて判断するところもあります。できない場合も、本当に向いていないこともあれば、環境を整えるなどの配慮をすればできる場合もあります。ただし、どこまで配慮するかは難しい問題です。過剰な配慮は、本人のポテンシャルに蓋をすることにつながります。手助けしすぎず、でも困った時には困ったと言える、風通しの良い環境づくりが最も重要だと考えています。

 メンバーに仕事の意義や目的を伝えることも大事です。単に「シールを貼る仕事です」ではなく、「この商品を多くの人に知ってもらうための仕事です」といった意義を伝えることで、モチベーションが上がり、喜んで仕事に取り組んでもらえます。

――取り組みを進めるうえで、苦労した点をお教えください。

 管理スタッフをはじめとする支援者同士で、目線や温度感を合わせるところが一番難しかったと感じます。例えば、それまでの人生で全く障がいを持つ人と接したことがない人と、障がい者福祉を学んだ人や特別支援学校の教員経験がある人とでは、配慮についての感覚や考えも異なります。そこで支援者側の目線で「こうするべき」と議論しても結論は出ませんが、当事者を主語にすれば、同じ景色が見えてきます。「この人がこの作業をするために何が不足していて、何を手助けすればうまくいくだろうか」というスタンスで向き合うことが、適切な配慮のあり方につながると考えています。

――取り組みの成果をどのようにとらえていますか。スマイルファクトリー内での変化や社内への好影響があればお教えください。

 まず、実務の生産性は大きく向上しました。設立当初はラベル貼りの業務の成果が1日50ケース程度だったのが、今では600ケース。当時は、管理スタッフが一人当たりの業務量を調整するなど過剰な配慮によってメンバーの力を削いでしまっていました。それを本当に必要な配慮に変えることで生産性を高めたのは、成果の一つです。

 障がいのある人への理解促進という面でも成果は感じています。スマイルファクトリーでは、江崎グリコの従業員や外部企業からの見学を受け入れています。障がいのある人に対するイメージは人それぞれで、無意識にネガティブなイメージを持っていることもあります。実際に現場を見学し、メンバーが働く様子を見たりコミュニケーションを取ったりすることで、イメージが変わったという声もあります。

 またスマイルファクトリーでは、聴覚障がいを持つ人が管理スタッフとして働いています。江崎記念館で、聴覚障がいを持つ見学者にどのようにサポートができるか検討していた時に、そのスタッフに声がかかり、手話で案内をすることになりました。当事者が手話で案内をするという新たなステージが生まれたという意味で、これも成果の一つと言えると思います。

 江崎グリコ全体についても、障がいのある人に対する理解が進んできていると感じます。「障がい者だから」という区別はなくなってきて、スマイルファクトリーでできそうな仕事の依頼がどんどん来ている状況です。デザイン部と一緒にパッケージのインクルーシブデザインを考えるといったこともあります。

――D&I推進に向けて、今後特に力を入れていきたいことを教えてください。

 身体障がい、知的障がい、精神障がいなどの方の採用を進めてきましたが、今後、発達障がいの方の採用を検討しています。「ニューロダイバーシティ」と言われるように、発達障がいのある人が持つ特性を活かして活躍することを推進する世の中の動きもあります。特性としてコミュニケーションは苦手だが、デジタル系などのスキルを持つ人も多いので、そういった業務での採用を考えています。最初は人事のサポートのもとで環境に慣れ、そのあとで配属先に移るといった段階的な受け入れや、複数の企業が連携して受け入れを進めることでマッチングの可能性を高めるといった取り組みも考えられます。

 ただ、当社のみならず世の中全体として、障がいを持つ方が特性を生かして会社に貢献し、適切に評価されるためには、人事評価制度へのテコ入れが欠かせないでしょう。どんな特性を持つ人でも当たり前に力を発揮できる仕組みを作っていくことは、今後予想される働き手不足という課題解決にもつながる大切な取り組みだと考えています。